第170話 2位攻防白黒戦

 四国アイランズとの3試合目も僕は9番セカンドでスタメンで出場した。

 チームは敗れたものの、3打数1安打、1四球、1盗塁とまずまずの結果を残した。

 トーマス・ローリー選手が戻ってくる前にスタメンの座を固めたいところだ。


 移動日を一日挟んで、週末はアウェーでの中京パールス2連戦。

 中京パールスは現在3位であり、2位の泉州ブラックスとは2ゲーム差。 

 泉州ブラックスとしては突き放したいし、中京パールスとしては追いつきたいところだろう。


 中京パールスの本拠地、中京パールスタジアムは野球場としては珍しく白を主体とした球場である。

 グラウンドのフェンスまで白を使うと、ボールと溶け込んで見づらくなるため、黒く塗られているが、球場の外壁や観客席は白が多い。

 チーム名であるパール(真珠)をイメージしているのだろう。


 その点ではチーム名に黒が入っている泉州ブラックスとは対をなす。

 泉州ブラックスのチームカラーは黒で、球場もユニフォームも寮も黒が多く使われている。

 だから中京パールスとの試合は、ファンの間では白黒戦とかオセロシリーズとか呼ばれている。


 この大事な試合で先発マウンドを任されたのは、杉田投手。

 僕とは同世代であり、今季はここまで3勝を挙げている。


 そして僕は杉田投手を盛り立てたいと思っていたが、今日はベンチ警備を仰せつかった。

 相手の先発が右腕の大須投手であり、僕が右投げ投手に対する打率があまり良くないこと、泉選手が大須投手と相性が良いということを勘案しての判断だろう。


 泉選手は最近は調子を落としており、一時は三割を大きく越えていた打率も、.235まで落ちていた。

 

 1軍では活躍すると、すぐに対策を取られ、苦手なコースにばかり投げられる。

 だから最初のうちは打ててもやがて打てなくなる。

 

 また、アマチュアとの大きな違いは守備である。

 プロの選手はヒット性の抜けそうな当たりを軽々と取る。

 

 ある既に引退した、一流選手が過去にこう言っていた。

 10回打席に立ったとすると、半分以上は芯で捉えた当たりである。

 しかし、守備がうまいため、良いコースに飛んだ、その半分程度しかヒットにならない。

 だから6割以上は芯で捉えないとプロで三割を打てないそうだ。

 プロでシーズンを通して三割を打つバッターというのは僕からしたらバケモノだ。


 大須投手は36歳のベテランであり、ストレートは140km/hにも届かないが、110km/h台のチェンジアップ、ナックルカーブ、シュートなど多彩な変化球を操る技巧派の投手だ。

 毎年コンスタントに二桁近く勝っており、今季も現時点で5勝を挙げている。


 初回から泉州ブラックス打線は、老獪な大須投手の投球術に填まり、良い当たりがあったものの3回まで無安打に抑えられている。

 打てそうで打てない。

 横からベンチで見ていると、打ち頃の球に見えるが打席に立つと、また違うのだろう。


 一方で杉田投手も熱投を見せ、3回までヒット2本の無失点に抑えていた。

 杉田投手は大須投手とは対照的に150km/hを超える速球とスプリット、ツーシーム主体の投球である。


 4回の表は1番の岸選手からの好打順であり、2番の山形選手がチーム初ヒットを放ったものの、後続が倒れ、大須投手の前に無得点に終わった。


 4回裏、杉田投手は5番のビドル選手にソロホームランを打たれ、均衡は破れた。


 5回表はデュラン選手、宮前選手に連続でヒットが生まれ、ノーアウト一、二塁のチャンスを掴んだ。

 

 しかしここからが大須投手の真骨頂である。

 7番の伊勢原選手は、送りバントを試みたが、バントをしづらいコースに投げられ、ツーストライクと追い込まれ、打撃に切り替えた。

 だが外角へ計ったように決まったカーブを見送り、三振となった。


 そして8番の高台捕手はストレートとチェンジアップのコンビネーションで、セカンドゴロに打ち取られ、ダブルプレーとなった。


 これで大須投手は勝ち投手の権利を手に入れた。

 打ち崩せそうで打ち崩せない。

 僕はベンチから大須投手のボールを自分ならどう打つか、イメージトレーニングをした。

 正直、一つ一つの球は打てそうに思える。

 だが実際に打席に立つと、その老獪な投球術の前に、凡打の山を気付いてしまうのだ。


 5回裏、杉田投手はフォアボールをきっかけにワンアウト三塁のピンチを招き、内野ゴロでまた1点を失った。

 

 これで0対2。

 厳しい試合展開だ。

 こういう時には、雰囲気を変える元気印の選手を出した方がいいんじゃないですかね?

 5回裏終了後のグラウンド整備と中京パールスのチアガールのパフォーマンスが行われている中、僕は腕組みしている朝比奈監督の方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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