第347話 ホームラン祭り
谷口は高校時代は、高校球界屈指のスラッガーとして名を馳せた。
入団時は将来の主砲として、大きな期待を背負っていた。
下位入団の僕と違って。
だがそんな谷口もプロに入ってからは思うような成績を残せず、現役ドラフトで札幌ホワイトベアーズに移籍した。
そして弛まぬ努力で、バントというスラッガーらしからぬ特技を身につけ、8年目の今シーズンようやく一軍に定着したのだ。
そんな谷口に甘い球は禁物である。
初球。
チェンジアップが甘く入った。
谷口は見逃さなかった。
完璧に捉えた打球は、レフトスタンドに飛び込んだ。
谷口らしいロケット弾のような弾丸ライナーでのホームラン。
どうだ。
プロは厳しいだろう。
マウンド上で呆然としている蒔田投手に僕は心の中で語りかけた。
これで3対1と試合をひっくり返した。
続くバッターは3番の道岡選手だ。
道岡選手も気落ちした蒔田投手の2球目をライトスタンドに運んだ。
これで4対1。
岡山ハイパーズのブルペンは忙しくなってきただろう。
次のダンカン選手への初球。
内角へのストレート。
ダンカン選手は仰け反って避け、蒔田投手を睨んだ。
これでワンボール。
そして2球目。
またしても内角低めへのストレート。
これは決まってストライクワン。
睨まれてももう一球、内角に投げ込んだ。
これくらいの負けん気の強さが無いと、1年目から活躍できないだろう。
そしてワンボール、ワンストライクから外角へのスプリットを投げ込み、ダンカン選手はファーストゴロに倒れた。
蒔田投手はこの回4失点を喫した。
唇を噛み締めながら、悔しそうな表情で岡山ハイパーズベンチに戻っていった。
4回表、味方に逆転してもらった五香投手は、水を得た魚のように躍動感あるピッチングで、わずか7球で三者凡退に抑えた。
そして4回裏の札幌ホワイトベアーズの攻撃。
5番の下山選手がツーベースヒットで出塁し、6番の上杉捕手もライト前ヒットで続いた。
これでノーアウト一、三塁。
岡山ハイパーズベンチは、ここで蒔田投手を諦め、リリーフとして大卒5年目右腕の三上投手を送った。
三上投手は今日一軍に昇格したばかりであり、ここは結果が欲しいところである。
3点ビハインドとは言え、まだ回は4回裏。
岡山ハイパーズの攻撃は5回分残っているので、三上投手がこのピンチを切り抜ければ、まだ試合はわからない。
三上投手はサイドスローであり、ツーシーム、シンカーが持ち味だ。
札幌ホワイトベアーズの7番はロイトン選手。
ここ最近は不調のため、打順が下がっている。
そのロイトン選手に対し、三上投手はいきなりスリーボールにしてしまった。
3球ともコースをついており、明らかにボールという球では無く、審判によってはいずれかをストライクとコールしててもおかしくは無い。
そして4球目。
ストライクゾーンを狙ったシンカーが甘く入ってしまった。
不調とは言え、ロイトン選手は長打力がある。
ロイトン選手が振り抜いた打球は打った瞬間、ホームランとわかるような大きな当たりだった。
そしてレフトスタンドの上段に突き刺さった。
これで7対1。
三上投手はがっくりと項垂れている。
続投したが、8番の五香投手にもセンター前ヒットを打たれてしまった。
そしてノーアウト一塁の場面で僕の打順を向かえた。
点差があるので、送りバントのサインはでていない。
ここは一発、狙っちゃおうかな。
そう思いながら打席に入った。
僕は140km/hくらいのいわゆる半速球は得意な方である。
サイドスローも苦手ではない。
初球。
内角高目へのシンカー。
手元に来たので、少し仰け反って避けた。
ワンボール。
2球目。
外角へのスライダー。
これも見逃したが、外角いっぱいに決まった。
カウントはワンボール、ワンストライク。
そして3球目。
シンカーが内角寄りのストライクゾーンに来た。
僕はやや腕を畳み、この球をフルスイングした。
バットの芯で捉えた感触があった。手応え抜群。
一塁に走りながら、打球の行方を見ていた。
これが入らなければ、僕はもうホームランを打てない。
それくらいの打球であり、ボールはレフトスタンド中段に飛び込んだ。
今シーズン第3号のツーランホームラン。
これで9対1。
僕は心地よい歓声を聞きながら、ダイヤモンドを一周して、ホームインした。
よし、いい気分でオールスターを迎えることができそうだ。
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