第346話 プロの厳しさ
五香投手は7番の上川選手、8番の吉成捕手を三振に打ち取り、2回表を終えた。
2回裏の札幌ホワイトベアーズの攻撃は、初回に続き三者凡退に終わった。
岡山ハイパーズの蒔田投手は、昨秋のドラフト2位で大学から入団した新人左腕であるが、既に4勝を挙げている。
これは最下位に沈む岡山ハイパーズの中で希望の光となっていた。
力強いストレートにツーシーム、落差のあるフォークとチェンジアップを投げ分けてくるので、なかなか狙い球を絞りづらい。
とは言え次の回は僕に打席が回ってくるので、プロの先輩としての貫禄を見せつけてやりたい。
その前に守備だ。
僕はグラブを掴み、ショートの守備位置に向かった。
この回は9番の蒔田投手からの打順である。
蒔田投手はバッティングにも定評がある。
五香投手と異なり、投手専任だが、指名打者制度の無いシーリーグのため、その打棒を発揮する機会がある。
ここまで打数は少ないながらも、打率.286を残しており、打者顔負けである。
初球、五香投手のスライダーを捉えた鋭い打球が三遊間に飛んできた。
さすがにこれは取れない…。
ホーム球場での打球の特性を知っている、僕で無ければね。
滑り込むようにして、うまくバウンドを合わせて、打球をグラブに納め、そのまま踏ん張って一塁に送球した。
足の速いバッターなら内野安打だったかもしれないが、蒔田投手はそれ程足が速くない。
間一髪間に合った。
うん、我ながら素晴らしいプレーだ。
僕はさも当たり前のような顔を繕って、守備位置に戻った。
僕の目指すショート像は、難しい打球をさも当たり前のように捌く選手だ。
素人目にはファインプレーに見えなくても、野球好きの玄人の方を唸らせる。
そんな玄人好みのプレイヤーになりたい。
打順は1番に帰って、水沢選手。
今度はハーフライナーがショートに飛んできたが、これもワンバウンドでしっかりと打球を捕球し、一塁に送球した。
水沢選手は足が速いので、それを頭に入れたプレーだ。
これも間一髪アウト。
球場内から大きな拍手を頂いた。
ファンの声援は本当に励みになる。
五香投手は次の2番打者の敷村選手に9球粘られたが、センターフライに打ち取り、三者凡退でこの回を終えた。
さあ、次は僕に打順が回ってくる。
3回裏、1対0と1点のビハインド。
この回の先頭バッターは、7番のロイトン選手からの打順である。
これまで蒔田投手の前に、一人のランナーも出せていない。
ロイトン選手はフルカウントから、フォアボールを選んだ。
外角のかなり際どいボールを見極めて(手が出なかった説もある)、勝ち取った貴重なランナーである。
続くバッターはピッチャーの五香。
初球を送りバントを決めた。
これでワンアウト二塁。
スコアリングポジションにランナーを進めたということは、僕の打棒に期待ということだな。
ここは蒔田投手に対して、プロの厳しさを教えてやろう。
僕は気合を入れて、打席に入った。
ワンボール、ツーストライクからの4球目。
ストレートかと思いきや、チェンジアップ。
辛うじてバットに当てた打球は、ボテボテのサードゴロ。
サードの本田選手が懸命に突っ込んできた。
僕は本田選手からの一塁への送球とほぼ同時に一塁を駆け抜けた。
微妙なタイミングだ。
どうだ?
一塁塁審は手を広げている。
岡山ハイパーズベンチはリクエストはしなかった。
打球がボテボテだったのが幸いした。
どうだ、見たか。
この運の良さを。
これも日頃の行いの成果だぜ。きっと。多分。
どんなに当たりが悪くてもヒットはヒット。
これでワンアウト一、三塁で1番の西野選手に打席が回った。
さあ西野選手。
蒔田投手にプロの厳しさを教えてあげてください、と思っていたら初球をあっさりショートゴロ。
6-4-3と渡ってあっさりダブルプレーで攻撃終了、蒔田投手はピンチ脱出…。
とはならないのが、プロの厳しさ。
セカンドはフォースアウトになったものの、ファーストはセーフ。
ロイトン選手はホームインし、1対1の同点に追いついた。
西野選手は俊足。
簡単にはダブルプレーは取らせないのだ。(変な日本語…)
さて次は谷口。
今度こそお前が、プロの厳しさを見せつけてやれ。
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