第151話 リズムは守備から

 5回裏、1点を追う泉州ブラックスの攻撃は1番からの好打順だ。

 

 ということで、さっきのホームランのシーンがバックスクリーンのビジョンで流れている。

 僕は大歓声に迎えられて、バッターボックスに入った。


 この回からマウンドは、安宅投手に替わっている。

 かっては抑えの切り札を期待されたが、今は中継に活路を見いだしている選手だ。


 安宅投手の得意球は、150㎞/hを超えるストレートとチェンジアップ、そして鋭く落ちるフォークだ。

 フォークを意識しすぎると、ストレートに振り遅れてしまう。

 どちらかに的を絞らないと。

 

 そう思っていたが、この打席は安宅投手の術中にはまり、チェンジアップを引っかけてしまった。

 これで今日は3打数1安打だ。

 うーん、もう1本は打ちたい。


 この回は1番からの好打順であったが、安宅投手の前に三者凡退に終わってしまった。


 6回表は、続投した二宮投手が踏ん張り、三者凡退に抑えた。

 そして6回裏の攻撃も簡単に終わり、試合は4対3のまま、ラッキーセブンの攻防を迎えた。


 7回表、泉州ブラックスのマウンドには丸山投手が上がった。

 静岡オーシャンズは8番の前原捕手からの打順である。


 しかし丸山投手は制球が定まらず、前原捕手、飯田選手に連続してフォアボールを与えてしまった。

 そして前原捕手のところに俊足の西谷選手が代走に送られた。

 

 そして1番の新井選手には簡単に送りバントを決められ、ワンアウト二、三塁のピンチを迎えた。


 僕ら内野陣はマウンドに集まった。

 次の打者は吉川選手である。

 終盤での追加点は致命的になりかねない。

 ここは何とか0点に抑えたい。


「いいか、吉川は外角低目に弱い。

 ここを狙っていく。

 当たっても内野ゴロだ。

 内野陣はホームに投げられるようにやや前進してくれ」と高台捕手が言った。

 そして輪がほどけた後、外野には前進守備を指示した。

 シングルヒットや外野フライを打たれてもホームで刺せるようにということだろう。


 この場面では1点の失点も2点の失点もある意味同じようなものた。

 もう1点もやれない。

 緊張感の中、前傾姿勢を取った。さあ来い。


 ツーボールワンストライクからのカットボールを吉川選手は三遊間に打ってきた。

 僕は打球を捕球し、すぐさまホームに投げた。

 三塁ランナーは突っ込んでおり、タッチアウト。


 そして高台捕手が二塁に投げた。

 というのも送球の合間を縫って飯田選手が二塁に向かったからだ。

 ところがセカンドカバーに入っていた額賀選手は前に出て、送球を掴み、ホームに投げた。


 飯田選手が一二塁間に挟まれている間に、二塁ランナーの西谷選手がホームに突っ込むという作戦を見破ったからだ。

 そして西谷選手を三塁とホームの間で挟み、アウトにした。

 

 泉州ブラックスとしては、ワンアウト二、三塁の大ピンチを無失点で凌いだ。

 これは大きい。

 1点負けているものの試合の流れが、泉州ブラックス側に傾いたのを感じた。

 野球の格言で、リズムは守備からというのがある。

 またピンチの後にはチャンスという言葉もある。 

 

 7回裏の泉州ブラックスは7番の絶不調の宮前選手からの打順だ。

 だが宮前選手はこの回から登板した田部投手の初球をレフトスタンドに放り込んだ。

 さすが大型新人。

 打者は一振りで不調から抜け出すことがある。

 宮前選手もそうなるかもしれない。

 

 これで4対4の同点に追いついた。

 次のバッターは高台捕手。

 高台捕手はワンボールツーストライクから外角低目のスライダーに手を出し、打球はフラフラと一塁線上に上がった。

 ファーストが懸命にバックし、ライトも前進してくる。


 完全に打ち取られた打球だが、ボールはライト前に落ち、しかもバウンドが変わって、ファールゾーンに流れていった。

 高台捕手はこれを見て、二塁に進んだ。

 記録はツーベース。

 泉州ブラックスのベンチは押せ押せムードに沸いていた。


 9番の山形選手は見事送りバントを決め、打順はトップに帰った。

 ワンアウト三塁。

 ここは美味しい場面だ。

 打たせてくれますよね?

 僕はネクストバッターズサークルからベンチを見た。

 栄ヘッドコーチが肯いている。

 僕はそのままバッターボックスに入った。 

 

 

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