第221話 三割打者?
あとヒットを一本打てば、猛打賞だが、もちろんチームの勝ちが最優先である。
初球、真ん中低めへのスプリット。
僕はバッティングの構えから、バントの構えをしたが、空振りしてしまった。
一瞬、セーフティバントが頭をよぎってしまったのだ。
もう一度、ベンチを見ると引き続き送りバントのサイン。
僕は今度はあらかじめバットを横に構えた。
2球目。
投球は外角低めへのストレート。
僕はバットを出し、当てた。
しかしボールは無情にもファールゾーンに転がっている。
やばい。追い込まれた。
僕は一度打席を外し、ベンチのサインを見た。
サインは引き続き送りバント。
バントには難しいシチュエーションだ。
ノーボール、ツーストライクなのでピッチャーはボールになることも厭わずに、バントするには難しい球を投げてくるだろう。
ツーストライクからのバント失敗は三振となる。
3球目。
外角低めへのスプリット。
やはりバントには難しい球だ。
しかし僕だって伊達に6年間もプロで飯を食べてない。
膝を曲げ、バットに当てた。
ボールはちょうどピッチャーとファーストの間に転がっている。
うまく勢いを殺せた。
一目散に一塁に向かって走る。
ファーストの砂川選手が突っ込んできている。
僕は送球とほぼ同時に一塁を駆け抜けた。
「セーフ」
僕は咄嗟にバックスクリーンを見た。
ヒットの青ランプが点っていた。
あれ?、ということは…。
猛打賞である。
しかもノーアウト一二塁のチャンスだ。
僕はふとバックスクリーンの僕の名前の横にある打率を見た。
そこには.303と表示されていた。
あれ?
一昨日の6タコの時点で9打数5安打でないと3割に達しないはずだったが…。(第195話)
よく考えると、昨日から僕は5打数4安打打っている。
ここまで76打数23安打。
まだ打数は少ないが、3割打者。
なかなか気分が良いものだ。
2番の泉選手はバントはあまり上手くない。
ここはどうするのかとベンチを見たが、送りバントのサインだった。
東京チャリオッツも泉選手がバントを苦手にしていることを当然知っているだろうから、ここは失敗させてあわよくばダブルプレーを取りたいところだろう。
一方で泉州ブラックスとしては二塁ランナーの山形選手も、一塁ランナーの僕も俊足だ。
転がしさえすれば、セーフの可能性は高い。
泉選手はバントの構えをしていない。
あまりバントが上手くない選手は最初からバントの構えをした方が良いのだが…。
初球、真ん中低めへのスプリットだ。
これはバントには難しい球だ。
ところが何を思ったか、泉選手はヒッティングした。
打球はセンターに上がっている。
え、なんで?
打球は懸命に下がるセンターの角選手の頭の上を越した。
長打コースだ。
ボールはフェンスまで達し、ホームに返ってくる間に、僕も三塁を回り、ホームに突っ込んだ。
角選手からのバックホームの球は、ややホームベースから三塁よりに外れ、悠々セーフ。
泉選手は二塁ベース上でガッツポーズをしている。
「今の送りバントのサインでしたよね?」
僕は一応、山形選手に確認した。
「俺もそう思っていたが…」
結果オーライではあるが、泉選手は後でこってり怒られるだろう。
何はともあれ、これで4対1でしかもノーアウト二塁でクリーンアップトリオを迎える。
滝田投手はマウンド上で首を捻っていた。
まさかあそこでヒッティングしてくるとは思っていなかったようだ。
それは泉州ブラックスとしても泉選手以外は同じだ。
3番の岸選手はライトフライを打ち、二塁ランナーの泉選手はタッチアップで三塁に到達した。
ワンアウト三塁のチャンスだ。
そして4番の岡村選手はきっちりとレフトに犠牲フライを打ち、これで5対1。
試合は俄然、有利になった。
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