第394話 9年目の開幕戦

 オープン戦が終わった。

 僕はチーム17試合中、14試合に出場して、22打数6安打の打率.273、ホームラン0本、打点1、盗塁2。

 決して悪くない数字だと思う。

 

 それに対して、湯川選手は17試合中16試合に出場して、50打数16安打の打率.320、ホームラン3本、打点12、盗塁4。

 後半やや数字を落としたが、素晴らしい成績であることに変わりはない。


 ちなみに谷口は15試合に出場し、40打数11安打、打率.275、ホームラン2本、打点4。

 今季もレフトのレギュラーポジションを掴みそうだ。


 そしてミーティングにて、開幕戦のスタメンが告げられた。


 1 湯川(ショート)

 2 谷口(レフト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(指名打者)

 5 下山(センター)

 6 ロイトン(セカンド)

 7 西野(ライト)

 8 武田(キャッチャー)

 9 青村(ピッチャー)


 予想していたとは言え、開幕スタメン落ちはショックだ。

 セカンドのロイトン選手もオープン戦は打率.300、ホームラン2本と好調であり、現時点でのベストメンバーということだろう。

 とは言え、開幕一軍には残ったので、出番が来たら、全力で役割を果たすだけだ。


 開幕戦。

 独特の緊張感がスタジアムを包んでいる。

 華やかさの中にも、厳な雰囲気があり、試合前のセレモニーでベンチ前に1列に並ぶと、いよいよ始まるんだ、という高揚感を感じた。


 今季の開幕戦は、ホームでの川崎ライツ戦。

 セレモニーが終わり、スタメンの選手たちはそれぞれの守備位置に散った。

 守備につく前には、サインボールを投げ入れるが、今日は開幕戦とあって、いつも一人当たり3個のところ、5個を投げ込んでいる。


 僕はベンチの隅に座り、青村選手の投球練習を見ていた。

 さすがエース。

 開幕戦にピークを合わせてきた。調子は良さそうだ。


 川崎ライツの一番打者は、森田選手。

 守備位置はショートで、昨秋のドラフトで2位指名を受けた、大卒社会人経由のルーキーだ。


 つまり両チームとも一番ショートに新人選手を充ててきた。

 そういう点でも注目の試合である。


 森田選手の初打席は、青村投手のスプリットを振らされ、三振に終わった。

 そして青村投手は、川崎ライツの上位打線を危なげなく三者凡退に抑え、軽やかな足取りでベンチに戻ってきた。


 1回裏、湯川選手の注目の初打席。

 川崎ライツの先発は、エースの横田投手。

 ストレートが強力な本格派左腕であり、チェンジアップ、ツーシーム、スプリットなどの球種を駆使して、打者を打ち取る。


 湯川選手はバッターボックスに入った。

 打ちそうな雰囲気がある。

 そして初球。

 横田投手の初球を捉えた。


 打球はセンターに上がっている。

 嘘だろう。

 センターの鈴木選手は追うのを諦めている。

 打球はバックスクリーン左横に飛び込んだ。

 プロ初打席、初球ホームランだ。


 球場内を大歓声が包み、湯川選手はダイヤモンドを嬉しそうに一周して、ホームインし、僕らはベンチを出て、湯川選手を迎えた。


 やはりモノが違う。

 改めてそう思った。

 開幕戦の初球とあって、横田投手は渾身のストレートを投げ込んだ。

 球速は155km/hと、左腕ということを考えるとかなり速い球だった。

 その球をいとも簡単に、センターバックスクリーン横に打ち返した。

 僕は湯川選手の底知れぬ力を感じた。

  

 そして2番の谷口もストレートを捉えたが、レフトフライ。

 完全に横田投手の球威が勝っていた。


 道岡選手、ダンカン選手も連続三振し、この回は湯川選手のホームランによる1点どまりたった。


 イニングチェンジとなり、湯川選手は大歓声に迎えられて、ショートの守備位置についた。

 そして帽子を取って、ファンの歓声に応えた。

 こういう立ち姿も絵になる。


 シーズンは始まったばかり。

 僕は焦らず、できることを一つずつやっていく。

 


 

 

 

 

 


 

 

 

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