第395話 真夜中の電話(嫌がらせとも言う)

 開幕戦は湯川選手のホームランで、札幌ホワイトベアーズが試合を優位に進め、3対0で見事勝利した。


 僕は9回にロイトン選手に替わって、セカンドの守備についたが、守備機会は無かった。

 今日は劇場は開幕せず、新藤投手は3人で抑えた。


 そして開幕三連戦。

 札幌ホワイトベアーズは川崎ライツ相手に三連勝と幸先の良いスタートを切った。


 僕は3試合とも守備または代走で途中出場したが、打席には立たなかった。

 湯川選手は、この三連戦、13打数6安打と大暴れし、ゴールデンルーキーの面目躍如となった。

 

 なおセカンドのロイトン選手も11打数4安打と良いスタートを切っている。


 次のカードは移動日を挟んでの熊本ファイアーズ三連戦(アウェー)だったが、そこでも札幌ホワイトベアーズは2勝1敗と勝ち越し、ロケットスタートを決めた。


 湯川選手はここでも3試合連続でヒットを放ち、デビューから6試合連続安打となっていた。

 25打数10安打の打率.400。

 うーん、凄い。


 僕は6試合目に守備から出場し、今季初打席を迎えたが、フルカウントから見逃しの三振に倒れた。

 ここまでチーム6試合全てに出場し、1打数ノーヒット、盗塁0、エラーも0。

 

 まだシーズンは始まったばかり。

 チャンスは多くなくても、その少ないチャンスを掴むために、僕は牙を研ぐ。


「よお、元気か」

「お前、今何時だと思っているんだ。夜中の3時だぞ」

「ああ、日本は真夜中か。

 ニューヨークはまだ14時だ」

 電話の主は山崎だった。

 僕は遠征先のホテルで、枕元の携帯電話が鳴った。

 寝ぼけ眼で携帯電話の着信ボタンを押し、耳にあてた。

 

「何の用だ。

 真夜中電話かけてくるということは、よっぽどのっぴきならぬ用事があるんだろうな」

「当たり前だろう。

 用事も無く、この俺様が、お前に電話をかける訳無いだろう」

「ほう、その大事な用事とやらを聞かせていただこうか」

 

「何でお前、スタメンで出ていないんだ。

 頭と性格以外にどこか悪いのか?」

「切って良いか?

 明日は朝から移動だから、早起きしなけれなならないんだ」

 

「その口調から察するに、どこも悪くないみたいだな」

「ああ、お前と違って顔と性格を含めて、極めて良好だ。身体も絶好調だ」

 

「じゃあ、何でスタメンで出ていないんだ?」

「お前、スポーツニュース見てないのか?

 湯川というゴールデンルーキーが入ったからだよ」

「ああ、そう言えばそうだったな」

「ということで切って良いか?」

 

「まあ、待てよ。

 これでも俺はお前の事を応援しているんだぜ」

「ああ、そうかい。

 そりゃどうもありがとよ。

 でもな、できれば次からは日本時間を調べてから電話してくれるか?

 真夜中の3時は一番最悪だ。

 もう一度寝るには短いし、起きているには長い」

 

「まあ、考えておく。そう言えば、俺は今晩先発だ。衛星中継で見てくれ。じゃあな」

 そう言い残して電話が切れた。

 あの野郎…。


 僕はもう一度眠りにつこうと思ったが、目が冴えて眠れなかった。

 仕方が無い。

 ホテルの周りを散歩でもするか。


 僕はジャージに着替え、ホテルを出た。

 外はまだ暗く、太陽はまだ昇る気配も無い。

 山崎のバカのせいで、こんな時間に…。


 ホテル近くの公園に差し掛かった時、ブンブンという音が聞こえた。何だ何だ?

 僕はその公園に入ると、暗い中、人影が見えた。

 どうやらバットを振っているようだ。


 僕は目を凝らしてみると、そこにいるのは湯川だった。

 必死の形相でバットを振っている。

 僕はしばらくの間、それを眺めていた。

 

「ふーう」

 暫くして湯川は大きくため息をつき、バットを下に置き、両手のひらを眺めていた。

 

「湯川、何しているんだ」

 僕は声をかけた。

「うぉーつ」

 湯川選手は驚いたように、振り向いた。

 

「あっ、高橋さん。

 おはようございます」

「おう、おはようというか、まだ今晩はかもな。

 何しているんだ。こんなところで」

 

「はい、中々寝付けなくて素振りしていました」

「何で寝付けないんだ?

 打撃も絶好調だし、悩みなんて無いだろう」

「いえ、そんな事は無いんです…」


「まあ缶コーヒーでも飲むか。何が良い?」

 僕は近くの飲料の自動販売機に小銭を入れた。

「はい、それでは甘いのをお願いします」

「暖かいので良いか?」

「はい」


 僕は缶コーヒーを2つ買い、一つを湯川選手に手渡し、ベンチに座った。

 湯川選手も並んで座った。



 



 

 

 


 

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