第499話 オープン戦スタート

 昨年末のハワイ、自主トレのフロリダ、キャンプの沖縄。

 ずっと暖かいところにいたので、札幌の寒さが身にしみる。

 3月初旬、キャンプを打ち上げ、自宅に戻るべく飛行機に乗り、新千歳空港に着陸すると、窓の外は雪世界だった。


 飛行機の外に出ると、いきなりヒャッとした冷気を感じた。

 沖縄と札幌。

 同じ日本とは思えない。

 僕は預けていたトランクを受け取って、すぐにコートを取り出し、着込んだ。


 「りゅーすけー」

 到着ゲートを出ると、翔斗が飛びついてきた。

 翔斗は最近僕のことをパパじゃなくて、りゅーすけーと呼んでいる。

 

 その後ろには結衣が待っていた。

 テレビ電話では毎日話していたが、2人に会うのは約1か月ぶりだ。

 

「はい、翔斗。お土産だぞ」

 空港で買った、緑の恐竜みたいなぬいぐるみを渡した。

 どうやらこれが最近の翔斗のマイブームらしい。

 

「ミー」

 翔斗が早速嬉しそうにそのぬいぐるみを抱きしめている。

 

 そして結衣と翔斗の手を片方ずつ繋いで、新千歳空港駅に向かった。

 北海道の冬は雪で道路が狭くなるし、路面が凍結するので車よりもJRの方が確実だ。

 空港から自宅の最寄駅までは30分ちょっと。

 だが列車内はかなり混雑しているようだったので、奮発して指定席に乗った。

 大きなトランクを持った外国人の方が多いようだ。


 自宅に戻ったものの、すぐにオープン戦が始まるため、あまりゆっくりはしていられない

 初戦は熊本での熊本ファイアーズ戦なので、2日後にはまた出発しなければならないのだ。

 まるで多忙なビジネスマン。ちょっと格好いいかも。

 僕はしばらく続く遠征に備え、バッグに着替え等を詰め込んだ。


 熊本ファイアーズとのオープン戦初戦、僕と湯川選手はベンチスタートだった。

 ショートのスタメンは、昨秋のドラフト2位入団で期待の新人、名塚選手。

 セカンドは新外国人のブランドン選手。

 期待の新戦力の二遊間だ。

 僕としてはお手並み拝見といったところで、悠然と構えている。


 この試合、名塚選手はいきなり3打数3安打の猛打賞、ブランドン選手は決勝のスリーランホームランを打った。

 僕は9回裏の守備だけ出場した。


 翌日の試合、二遊間のスタメンは光村選手と湯川選手だった。

 僕は8回の守備から出場して、9回表に打席に立ち、空振りの三振に倒れた。

 なーに。

 まだまだこれから。

 シーズンは始まったばかりさ。


 移動日を挟んで、次は大阪での泉州ブラックス3連戦。

 古巣の試合で暴れてやる。

 

 しかし初戦はベンチスタートとなり、二遊間のスタメンはセカンドはブランドン選手、ショートは名塚選手だった。

 僕は7回から出場したが1打数ノーヒット。

 それに対してポジションを争う名塚選手は3打数の2安打だった。

 名塚選手はここまで6打数5安打で打率は脅威の.833。

 

 しかしながら、僕は全然焦ってはいない。

 なぜならばコーチからは「お前の実力は良くわかっている。

 今は新戦力のお試し期間だ」と言ってもらっており、実際、次の試合はスタメンで使うと言われている。


 オープン戦の序盤は相手チームもお試し期間であり、新戦力のピッチャーを出してくる。

 本当の勝負はオープン戦の中盤以降だ。


 そして2試合目。

 1番ショートでのスタメンを告げられると、泉州ブラックスのファンからも拍手と歓声を受けた。

 トレードで出てもう2年半くらい経つが、このように応援してもらえるのはありがたい。


 僕としても決して泉州ブラックスから出たかったわけでは無いので、いつか戻ってこれたらという気持ちもある。

(地元からも近いし…)


 この試合、僕は6回表の第三打席(三振…)の後、6回裏の守備から北畠選手と交替となった。

 北畠選手は新人ながら守備に定評がある。

 

 しかしながら8回に回ってきた打席では、何とホームランを放った。

 名塚選手といい、北畠選手と良い、猛アピールをしている。

 それに対して僕はここまでまだノーヒット。


 正直なところ、内容もあまり良くない。

 とは言え、ここまでまだ4打席。

 焦らない、焦らない。

 これから、これから。


 泉州ブラックスとの3試合目は、名塚選手がスタメン、北畠選手が途中出場と、僕に出番は無かった。


 この後は四国アイランズ2連戦、岡山ハイパーズとの2連戦を行い、ようやく札幌でのオープン戦がある。

 札幌の3月はまだ寒いので、中旬以降に試合が組まれている。

 そこからが勝負だ。 


 

 

 


 

  

 

 

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