10年目 主力の責任

第498話 10年目の始まり

 年末年始は結衣と翔斗、そして母親と結衣の両親と一緒に、有馬温泉で過ごした。

 そして1月3日には、今年もフロリダでの自主トレのために渡米する。

 

 自主トレメンバーは昨年とほぼ一緒。

 黒澤選手、中本選手、道岡選手、与田選手、静岡オーシャンズの小田島選手、泉州ブラックスの富岡選手、そして僕と谷口。

 今年はこれに湯川選手も加わる。


 湯川選手は昨年、打率.279、ホームラン11本、打点51、盗塁17で見事に新人王に輝いた。

 年俸も1,500万円から3,500万円にアップし、2年目も活躍が期待されている。


 僕としては二遊間の定位置を争う強力なライバルであるが、一方で可愛い後輩でもある。

 一緒に自主トレしたいと言われれば、なかなか拒みきれない。

 まあこの自主トレで陰でいじめ抜いてやる…、なんてね。


 フロリダでは今年も黒澤選手の盟友であるバローズや、僕と谷口の旧知のトーマス・ローリーが手伝いに来てくれる。

 そして今年もあの人は来た。

 言うまでもないので、省略する。

 今年も一週間みっちりノックの雨を降らせて、颯爽と一足早く帰国した。

 さすがの湯川選手も初日はノックの雨の洗礼を受けてへばっていたが、何日か経つと慣れていた。

 さすが期待の若手だ。


 しかしいよいよプロ10年目である。

 入団時はプロで10年もやれるなんて、想像もしていなかった。

 1年、そして1年。

 少しずつ成長してきたと思う。

 

 ここまでやれたのはやはり周囲の人に恵まれたからだと思う。

 まずは1年目の当時の山城コーチとの夜間練習。

 出会いは最悪だったが、一流のコーチとの個人練習により、プロとして生きていくための基礎技術がついたと思う。

(1,257万円?、何のことでしょう?、きっと令和の徳政令でチャラになったに違いない)

 

 そして1年目の秋季キャンプでのTK組への抜擢。

 谷津コーチの地獄の特訓は、基礎体力を付けるという意味でも、あれだけやったんだから、と思い込む意味でも大きな転機だった。


 そして黒澤選手との出会い。

 黒澤選手の人的補償で、泉州ブラックスに移籍となったが、もし移籍していなければ4年目のオフに戦力外になっていたかもしれない。


 黒澤選手にフロリダでの自主トレに連れて行ってもらい、一流選手の取り組み方、つまりただがむしゃらに練習するのではなく、質を考えた練習をすることを学んだ。


 他にも所属した各チームの首脳陣や同僚選手。

 今だって、トーマス・ローリーが若手選手を連れて、自主トレの手伝いに来てくれている。

 ハングリー精神に富んだ大リーガーの原石を見ていると、自分がいかに恵まれた環境で野球をしてきたか、と感じる。

 そういう意味でも刺激になる。


 フロリダでの自主トレは1月下旬に打ち上げ、数日開けて、いよいよキャンプインだ。

 今年の二遊間はロイトン選手が退団したものの、札幌ホワイトベアーズは新外国人として、大リーグで通算300試合以上出場経験がある、ブランドン選手を獲得した。


 更に昨秋のドラフトでは内野手では2位で大卒の名塚選手、7位で高卒社会人経由の北畠選手が指名され、入団した。

 その他、光村選手、浅利選手、北田選手もおり、まさに札幌ホワイトベアーズの二遊間のポジション争いは百花繚乱、群雄割拠状態である。

 もっとも負ける気はサラサラ無い。


 我ながら守備力、ミート力、走力は優位に立っていると思うし、課題の長打力も向上しつつある。

 野球専門誌の予想でも、大体はセカンドが湯川選手、ショートが僕になっている。


 今の僕に一番大事なのはケガをしないことである。

 もちろんデッドボールや他の選手との交錯による怪我など、不運なもの、避けがたい怪我もあるが、ウォーミングアップをしっかりやることで防げるものもある。

 

 だから僕はキャンプでもシーズン中でもなるべく早く球場入りして、ウォーミングアップに時間をかけるのだ。

 今シーズンはまずは規定打席到達、そして打率3割、できれば盗塁王、あわよくばゴールデングラブ賞獲得、そして年俸一億円を越えたら、憧れのポルシェ購入。


 さあいよいよ節目、10年目の始まりだ。

 

 



 

 

 

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