第585話 いわゆるひとつの消化試合…

 翌日、予想通り佐和山選手は2軍に落ちた。

 首脳陣としては、あの守備では危なっかしくて使いづらいということだろう。


 良い素質を持っているのだから、一軍での経験を糧に、さらにレベルアップしてほしい。

 僕は昨日、佐和山選手が使っていた、カラッポになったロッカーを見ながらそう思った。


 川崎ライツとの3位攻防戦は、初戦を勝利したものの、その後2連敗し、ついに4位に落ちてしまった。

 札幌ホワイトベアーズがなぜ今シーズン調子が上がらないか。


 その理由の一つとして、レギュラー陣が軒並み、数字を落としているというのが挙げられる。

 昨年よりも成績を伸ばしているのは、僕と谷口くらいであり、特に道岡選手は故障から復帰後も、なかなか調子が上がらず、打率は.230台に低迷していた。


 そしてお気づきの方もいると思うが、レギュラー陣がここ数年、変わらないというのも、今シーズン低調な理由の一つである。


 強いチームは誰がが不調になると、それを補う若手や新戦力の台頭がある。

 しかしながら、札幌ホワイトベアーズは、レギュラー陣と控え選手の間の実力差が大きいので、不調の選手がいても、その存在を脅かすような選手が少ない。

 そういう意味ではチームとして、端境期に入っていると思う。


 そして4位に落ちた札幌ホワイトベアーズは、その後の5位熊本ファイアーズとの三連戦に負け越し、更には6位の仙台ブルーリーブスにも2連敗を喫してしまった。


 これで今シーズンの優勝は無くなり、3位の川崎ライツとの差も3.5ゲーム差に開いた。

 残り試合を考えると、これを逆転するのは困難であり、かと言って5位の熊本ファイアーズもは5ゲーム差がある。

 つまりほぼシーズン4位は確定である。

 

 となると札幌ホワイトベアーズとしては、残りの試合について、来季に向け、若手選手にチャンスを与えたり、また来季のチーム編成を見据えたテストに切り替えていくようだ。


 今日、2軍と大量に選手の入れ替えが行われ、ダンカン選手、下山選手など4人が一軍登録を抹消され、代わりにブランドン選手や九条選手、立花選手、西島投手の4人が一軍に昇格した。

  

 ブランドン選手は大リーグで300試合に出場した実績があり、セカンドが本職だが、内野なら大体全て守れる。

 とは言え、守備が特別上手いとも言えず、またバッティングもどちらかというと中距離ヒッターであり、ここまで40試合の出場で、打率.237、ホームラン3本にとどまっている。


 九条選手は育成出身のスイッチヒッターであり、今シーズンプロ初ホームランも放った。

 独立リーグも経験しており、内外野守れるし、俊足なので、貴重な戦力となっている。

 来季に向けて、チャンスを与えるという意図だろう。

 

 翻って立花選手は純然たる来季テストだろう。

 プロ12年目を迎えるベテランであり、かっては二桁ホームランを打ったこともあったが、年々出場機会を減らし、今シーズンはここまで一軍出場はない。

 来季は35歳を迎えるとあって、ラストチャンスだろう。


 今日からは仙台ブルーリーブスとの2連戦。

 ホームでは今シーズンこれが最後である。

 4位と最下位がほぼ確定したチームの対戦とあって、土曜日にも関わらず、試合開始時間近くになっても、観客席は半分程度しか埋まっていない。

 明日はホーム最終戦なので、恐らく満員になるだろうが…。

 

 ということで、今日のスタメンは以下のとおりである。


 1 高橋(ショート)

 2 光村(セカンド)

 3 谷口(センター)

 4 ブランドン(ファースト)

 5 立花(レフト)

 6 北畠(サード)

 7 九条(ライト)

 8 上杉(キャッチャー)

 9 鈴鳴(ピッチャー)


 僕と谷口、上杉捕手を除けば、2軍のスタメンと言っても過言がないくらいのラインナップである。


 僕がなぜスタメンかというと、まだ盗塁王のチャンスが残っているからだ。

 ここまで130試合に出場し、打率.307(518打数159安打)、ホームラン8本、打点42、盗塁49個。


 首位打者はシーズン終盤になって、熊本ファイアーズの伊集院選手が打率.325で首位に浮上し、ちょっともう無理である。


 ずっと首位だった水沢選手が.309まで下がってきたのに…。

 こういうのを覆面パトカーと言うのだろう。


 盗塁王はライバルの高輪選手がケガで戦線離脱し、京阪ジャガーズの中道選手との一騎打ちになっている。

 中道選手は盗塁数50個なので、僕とは一つ差だ。


 残り試合数は僕と同じであり、しかもシーズン最終戦は京阪ジャガーズとの直接対決である。

 離されないようについて行って、最終戦で雌雄を決したいところだ。

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