第423話 紙一重のプレー
僕はベンチを見た。
4点差あるので、大磯投手は続投のようだ。
そして黒沢選手に対しても、カウントはスリーボール、ノーストライクとしてしまった。
武田捕手がマウンドに行き、何かを話している。
ここはフォアボールでも仕方がないかもしれない。
4球目。
真ん中低目へのストレート。
ようやくストライクが入った。
黒沢選手は一球見たようだ。
5球目。
フォークボール。
黒沢選手は空振りした。
しかしここでフォークボールを投げたということは、次は何を投げるのだろう。
フォークの連投もありうるが、今のボールで黒沢選手もフォークボールに目が慣れただろう。
6球目。
フォークだ。
大磯投手としては自信のある球を投げたのだろう。
そして黒沢選手はこの球に備えをしていた。
フォークの落ちる瞬間をうまく捉えた打球は、ライナーでレフトに飛んでいる。
レフトの谷口は深めに守っていた。
必死に突っ込んでくる。
「ああっ」
谷口はスライディングキャッチを試みたが、取れない。
打球を後ろに逸らしてしまった。
ボールが転々とする間に、一塁ランナーと二塁ランナーはホームインし、黒沢選手は三塁に到達した。
記録は三塁打。
うーん、難しいところだ。
すぐに諦めて、ワンバウンドかツーバウンドで捕球すれば、1点で済んだだろう。
点差を考えると、チャレンジする必要性はあまりなかったかもしれない。
結果論にはなるが…。
いずれにせよ、難しい判断だったのは間違いない。
これで6対4と2点差に縮まり、ツーアウトランナー三塁で迎えるバッターは4番の岡村選手。
続投か、ピッチャー交替か、難しい判断となる。
そう思っていたら、大平監督が出てきた。
ピッチャー交替だ。
このピンチで登板するのは皆さんお待ちかねのKRDS(クルデス)の一角を担う、鬼頭投手。
おなじみの柴又を舞台にした映画の登場曲に乗って、颯爽とマウンドにやってきた。
大磯投手は悔しそうに首を捻りながら、マウンドを降り、ベンチに向かった。
この回のピンチ、そして失点は湯川選手のエラーから始まったことを思うと、その心中を察して余りある。
だがこういうピンチを抑えきれるのも、勝ちパターンを担うためには必要な資質かもしれない。
そして鬼頭投手は岡村選手に対し、フルカウントとされるも、最後は見逃しの三振を奪い、見事に切り抜けた。
さすが、仕事人。
三振を取った瞬間、四角い顔と細い目が特徴的な鬼頭投手は、軽くガッツポーズして、ゆっくりとマウンドを降りた。
そして結局、試合は後を継いだルーカス投手、新藤投手が8回、9回とピシャリと抑え、6対4で札幌ホワイトベアーズが勝利した。
ヒーローインタビューは、打のヒーローはもちろん満塁ホームランのダンカン選手。
投のヒーローは、五香投手。
そうか、忘れていたけど勝ち星は五香投手についたのだ。
結果的に6回2失点。
今季初勝利を挙げた。
ダンカン選手は終始ゴキゲンだったが、五香選手は面白くも何ともない無難な受け答えに終止した。
ヒーローインタビューとはどのように答えるべきか、今度教育してやらねば。
翌日の試合は1番セカンドでスタメンとなった。
ここまで打率3割を大きく越えており(何と51打数17安打、打率.333)、なぜ高橋をスタメンで使わないんだ、というファンからの声が大きくなっている…はずだ。
ちなみにショートは湯川選手。
2試合ぶりのスタメンだ。
だがこの試合、僕は5打数ノーヒットと1エラーと全く活躍ができなかった。
打率も.304まで下がってしまった。
仕方がない。
こんな日もあるさ。
そういう時は帰りのコンビニで冷凍のたこ焼きを買って帰るに限る。
さあ、明日も頑張ろう。
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