第424話 ある日のルーティン(ホームゲームの日)

 昨晩は少し飲みすぎたかな。

 僕は朝、10時過ぎに目が覚めた。

 ホームゲームでのナイターの日は、朝はゆっくりだ。

 

 昨晩は自宅に帰ってから、冷凍たこ焼きをつまみに、一杯やったので、寝たのは夜中の2時過ぎだった。


 リビングに入ると、翔斗がブロックを並べて一人で遊んでいた。

 早いもので生まれてから、1年半が過ぎ、もう一人でヨチヨチ歩きをするようになっている。

 

 僕に気付くと、「あー」と言いながら、ぎこちなく立ち上がり、ブロックを手渡してきた。

 遊んでほしいのだろう。

 

「あら、起きたの」

 洗濯をしていた結衣が、エプロンで手を拭きながら、リビングに入ってきた。

「翔ちゃん、良かったわね。

 パパが遊んで来れるって」


 「ダー」

 翔斗もそれに答えるように、もう一つブロックを渡してきた。

 僕は結衣が朝食の用意をする間、翔斗の相手をした。

 

 もう少ししたら、カラーバットとボールで野球を教えてやらないと。

 何しろ、大きくなったらプロ野球選手になって、やがてポスティングで大リーグに移籍して、10年で二〜三億ドルくらい稼いでもらう予定である。

 そのためには小さい頃から英才教育を施さないといけない。

 

 結衣は常々「元気に育ってくれさえすれば良いでしょう」と言うが、僕の才能を受け継いだ翔斗には是非、大物になってほしい。

 カラーボールを放り投げる姿を見ると、野球の才能がある気がする。


 朝食を食べると、顔を洗い、歯を磨き、試合に行く準備をする。

 僕は大体、13時くらいに球場に着くように家を出る。

 家から球場は車で30分くらいなので、12時過ぎに出れば余裕である。


 若い頃(今も充分若いが)は、早出特打をすることも多く、もっと早く球場入りしていたが、今は自分の体調とも相談して、大体このくらいの時間に球場入りしている。

 ちなみに谷口は今も球場入りはチームでも一、二を争うくらい早い。

 きっと家にいるのか苦痛なんだろう。

 可哀想に。


 ということで、今日も国産車の愛車、ぽるしぇ号で出発である。

 球場までの通勤時間は、僕にとってリラックスタイムであり、約30分というのは長くも短くもなく丁度良いと思っている。

 車の中では大体、好きなロックバンドの曲を大音量でかける。

 口ずさみながら、運転することで、テンションを上げるのだ。


 球場の駐車場では、大体止める場所が決まっている。

 首脳陣やベテラン選手は、奥の方の屋根がついている場所。

 つまりグラウンドから近く、雨に当たらない場所に停める人が多い。


 ちなみに若手は入口側の屋根の無い場所に停める。

 僕は一応中堅の域に達しているので、その間の屋根のある場所に停めている。

 

 昔、この慣例を知らないで、ベテラン選手の場所に停めた若手選手が車をレッカー移動されたことがあったそうだ。


 球場に着くと、ユニフォームに着替え、ストレッチで軽く体を動かす。

 チーム練習前に身体をほぐしておく事が大事だ。

 これを怠ると、ケガに繋がるので、僕は30分くらい時間をかけている。

 この時間はオンオフの切り替えという意味でも、僕にとっては重要だ。


 ホームチームの練習が終わり、試合開始の3時間前くらいになるとビジターチームが練習するので、その間はチームのミーティングがあり、それが終わると食堂で軽食を取ったり、溜まっているサインを書いたり、マッサージを受けたりして過ごす。


 打撃の調子が悪い時は鏡の前で素振りなんかもする。

 そこにも大体、谷口は居る。

 何てストイックなんだろう。


 今日も僕は1番ショートでスタメンを告げられている。

 昨日は5タコをくらったが、夜にはタコ焼きを食らったので、ゲン担ぎは済んでいる。

 もし今日、第1打席で凡退すると、打率3割を切ってしまう。


 静岡オーシャンズの先発は、左腕の田部投手。

 スクリューボールとスライダーが持ち球の投手だ。

 どちらかというと、軟投派の投手なので、苦手なタイプではない。

 さあ、今日も頑張ろう。 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

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