第575話 篠宮投手の意地
6回表のマウンドにも、篠宮投手が上がった。
さすがに疲れは隠せないが、一球一球間隔を開けつつも丁寧に投じ、ヒットを一本打たれたものの、この回も無失点に抑えた。
そして6回裏、岩城投手が降板し、あとを継いだ秋波投手から、谷口がソロホームランを打った。
「いやー、良い当たりだっただろ。
良いんだぜ、褒めてくれても」
「ケッ。ここでソロホームラン打っても焼け石に水だろ。
まだ11対6。5点差ある」
「でももしかしたら、もしかするよつな気はしないか?」
「うーん。でもここから勝ちパターンのピッチャーを出してくるだろ」
「まあ確かにな…」
続く下山選手がヒットを打ったところで、仙台ブルーリーブスはピッチャーを竹並投手に替えた。
竹並投手は仙台ブルーリーブスの勝ち試合で投げるピッチャーだ。
6回裏の攻撃は谷口のホームランの1点止まりであったが、この完全な負け試合でも、勝ちパターンの投手を引きずり出したのは、相手に取ってダメージが大きいかもしれない。
7回表も篠宮投手がマウンドに上がった。
これで6イニング目である。
篠宮投手にとって、これまでプロの一軍で投げた最長イニングは2回
だった。
つまり篠宮投手は現在、プロ入り最長投球回数を絶賛更新中である。
そしてこの回、フォアボールのランナーを1人出したものの、後続をダブルプレーに打ち取り、無失点で切り抜けた。
篠宮投手はもちろん、かなり疲れがあるだろうが、それを感じさせない。
お見事としか言いようがない。
そして7回裏。
この回の先頭バッターは、9番の篠宮投手である。
篠宮投手はダッシュでベンチに戻るなり、素早くヘルメットを被り、バットを持って素早くベンチを出ていった。
矢作コーチも大平監督もそれを見て、苦笑している。
恐らく篠宮投手は代打を出されるのを恐れたのだろうが、誰も準備していなかった。
つまり首脳陣としても、この試合は篠宮投手に任せたのだ。
篠宮投手はバッターボックスに入る前に一度ベンチの方を見た。
そして誰も代打が出てこないのを見て、安堵したようだった。
篠宮投手はそのままバッターボックスに入り、そしてワンストライクからの2球目。
何とバットを横にした。
まさかのセーフティバントだ。
仙台ブルーリーブスとしても意表をつかれたが、さすがにセーフとはならなかった。
でも篠宮投手の思いは良く伝わった。
僕としても簡単にアウトになるわけにはいかない。
そして初球。
セーフティバントを試みた。
だけど打球はピッチャー正面。
でも懸命に走れば何かあるかもしれない。
僕は一塁に向けて、必死に走った。
「スコーン」
またかよ…。
送球が逸れ、僕の頭に当たった。
最近このパターンが多すぎる。
これで3回目だ。
プロで送球がヘルメットに当たるのはそんなに頻繁にあるわけ無い。
しかも記録は相手のエラーだし…。
大体、送球が当たって、頭が悪くなったら、誰がどう責任を取ってくれるのだ。
プンプン。
まあ、痛くはないけど…。
過程はともかく出塁した。
そう僕を塁に出すと怖いのだ。
リーリーリー、ほれ、リーリーリー。
どう?、ウザいでしょ。
このウザさが相手にプレッシャーを与えるのだ。
そして牽制球を3球もらった後、僕は初球からスタートを切った。
投球は外角に外れたが、湯川選手はバットに当てた。
そしてその打球は、セカンドの酒田選手が二塁ベースカバーに入ったため、ちょうど空いている場所に飛んだ。
打球はライト前に抜け、僕は二塁を蹴って、三塁に到達した。
これでワンアウト一、三塁のチャンスだ。
仙台ブルーリーブスの内野陣がマウンドに集まっている。
点差は5点。
セーフティリードとも言えなくなってきた。
しかも次のバッターはチャンスに強い道岡選手だ。
もし道岡選手にヒットが出て、万が一、次のダンカン選手にホームランなど出てしまった日には、1点差になる。
もしかするともしかするかも。
竹並投手は続投のようだ。
まあ、不運(送球が僕のヘルメット直撃と打球の飛んだ方向が良かった)が重なって、背負ったピンチと考えると、必ずしも投球を捉えられてはいない。
さあ頼みますよ、道岡さん。
結構昔から登場しているのに、地味でキャラクターが定まっていないんですから。
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