第576話 ラッキーセブンの攻撃

 道岡選手は、黒沢選手の自主トレ仲間であり、プロ入りしてから札幌ホワイトベアーズ一筋で、ミスター白熊という愛称もあるとかないとか。


 そもそもシロクマの英訳は、ポーラベアーであり、白熊ってなんじゃ、という声もチラホラ聞こえる。

 設定としては、神の使いとして、灰色の熊が突然変異して銀色の毛になった、伝説の神々しい存在ということであり、いわゆるホッキョクグマとは違うそうだ。

 ホンマかいな。

 そもそも銀色の毛なら、シルバーベアーじゃないのか?


 この場面、最悪はダブルプレーであり、その次は三振である。

 三塁ランナーの僕は言うまでもなく、一塁をランナーの湯川選手も俊足である。

 つまり仙台ブルーリーブスは足を使った攻撃にも備える必要があり、よりプレッシャーがかかる場面だ。


 リーリーリー、ほれ、リーリーリー。

 湯川選手は大きくリードしている。


 だが竹並投手は簡単には牽制球を投げられない。

 というのも、投げた瞬間、僕がスタートを切る可能性もあるからだ。

 

 竹並投手は左腕なので、セットポジションに入ると、一塁方向を見る。

 よって三塁の僕の動きを逐一見ることができない。


 迂闊に牽制球を投げて、一二塁間に湯川選手が挟まれている間に、僕がホームを陥れるという作戦も考えられる。


 竹並投手はじっと湯川選手の動きを見ていたが、やがて振り返って僕の方を見た。

 ここはピンチとあって、時間をかけている。


 そしてようやく初球を投じた。

 だが投球は外角に大きく外れた。

 外れたというよりも外したのだろう。


 その証拠に秋保捕手は捕球すると同時に立ち上がり、ランナーの様子を伺っている。


 仙台ブルーリーブスとしては、道岡選手を歩かせても良いと考えているかもしれない。

 ワンアウト満塁にし、ダンカン選手と勝負した方が与しやすい、という判断もありうる。


 ダンカン選手は一発もあるが、足は速くないので内野ゴロに打ち取れば、ダブルプレーを取る確率が上がる。


 そして竹並投手はストライクゾーンギリギリを攻めたが、選球眼の良い道岡選手は良く見極め、フォアボールを勝ち取った。

 これでワンアウト満塁。


 バッターボックスには4番のダンカン選手が左打席に入った。

 ダンカン選手はここは一発狙ってくるだろう。

 もし一発でたら、11対10。

 一気に1点差になる。

 

 ピッチャー交替も考えられる場面だが、仙台ブルーリーブスは竹並投手の続投を選択した。

 ブルペンには塩釜投手、作保投手も控えているだろうが、どちらも右投手。


 ここは左の竹並投手の方が、分があると判断したのだろう。

 そしてダンカン選手は竹並投手のスライダーの前に三振に倒れた。

 低め低めに球を集め、うまくコースをついた竹並投手の投球は素晴らしく、これだけの投球をされればノーチャンスだったと言わざるを得ない。


 でも大丈夫。

 次は頼りになる谷口である。

 当然ここは打ってくれるだろう。

 もし、ここで打たなければ、後で僕から罵詈雑言を浴びせられるのは火を見るよりも明らかだ。

 

 ここで仙台ブルーリーブスはピッチャー交替を選択した。

 谷口は右バッターなので、右投手をぶつけてくるのだろう。

 マウンドには右の塩釜投手が上がった。

 160km/h近いストレートを投げてくる、パワーピッチャーだ。


 ツーアウト満塁なので、仙台ブルーリーブスの守備隊系は中間守備である。


 初球。

 真ん中低目へのストレート。

 見送ったがストライク。


 2球目。

 外角低めへのストレート。

 打ちに行ったが、ファール。


 ボール球を一球挟んでの4球目。

 真ん中低めへのストレートを拾い上げた。


 バットが折れ、打球はフラフラとファーストの頭上に飛んでいる。

 メンディ選手が懸命に下がり、ライトの立野選手も突っ込んできた。


 そして打球はその丁度間に落ちた。

 三塁ランナーの僕はもちろん、二塁ランナーの湯川選手もホームインした。


 谷口は一塁ベース上で、ガッツポーズしている。

 当たりは良くなかったが、まあ良くバットに当てた。

 結果オーライということで、ここは許してやろう。

 

 11対8となり、更にツーアウト一、三塁のチャンスで、バッターは下山選手だったが、ここは塩釜投手が踏ん張った。

 下山選手はライトフライに終わり、7回裏の攻撃を終えた。


 そして8回表のマウンドにも、篠宮投手がゆっくりと向かっていった。 

 

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