第491話 三田村の結婚式①

 その後も続々と黒沢選手を始め、静岡オーシャンズの懐かしき面々がやってきた。

 現役選手もいれば、引退した選手もいる。

 その中には先日会った、内沢さんもいた。

 わざわざ茨城県から来てくれたのだ。


 参列者の中には、下町のナポレオンを抱えて、昼間から街中でクダを巻いてそうなおっさんもいる。

 場違いなので追い出そうと思ったが、一応招待状を持っていた。

 なお、来年の自主トレにもついてくるそうだ。

 どこでやるかを聞かれた。

 怖い…、ストーカーか。


 その他、誉田監督を始めとして首脳陣も来場した。

 これだけの面子が揃ったのも、三田村の人徳によるものだろう。


 披露宴会場はかなり広かった。

 優に百人以上、入れるだろう。

 来場者の約7割が新郎の知人で、妹側は高校、大学時代の友人や今の会社の上司や同僚だ。


 新郎側はガタイの良い、むさくるしい奴らばかりだが、新婦側はさすがに華やかだ。

 翔斗は油断すると、トコトコ歩いて、女性の方に行ってしまうので、目を離せない。

 全く誰に似たんだ。

  

 披露宴が始まり、スモークの中、三田村と妹が入場してきた。

「おおっ」

 感嘆の声が上がった。

 新婦は白いウェディングドレス姿。

 我が妹ながら、綺麗だ。

 素直にそう思った。  

 

 妹は小さい頃からお転婆だったが、このような姿を見ると目頭が熱くなる。

 幼い頃に父親を亡くし、母親と僕と妹の3人で、大阪の片隅で肩を寄せ合って生きてきた。

 決して裕福な暮らしではなかったが、今思うと幸せな日々だったと思う。

 

 普段、妹とは良く言い争いをするが、僕は誰よりも妹の幸せを願ってきた。

 相手が三田村で本当に良かったと思う。

 三田村ならきっと妹を幸せにしてくれるだろう。


 披露宴はつつがなく進み、下品な宴会芸も無く(あらかじめ釘を刺しておいた)、最後の新婦の手紙の時間を迎えた。

 

 会場の照明が落とされ、妹と三田村がスポットライトに照らされた、マイクの前に立った。

 嫌な予感しかしない。

 妹とはさっき言い争いをしたし、もしかして僕をディスるような事を言うんじゃないか。

 

「本日は何かとご多忙の中、私と清さんの結婚披露宴にご来場頂き、ありがとうございます。

 少しお時間を頂き、お母さん、そしてお兄ちゃんへの手紙を読ませて頂きたいと思います」

 妹は手紙を取り出して、読み出した。

 

「最初にお母さんへ。

 小さい頃にお父さんを亡くし、女手一つで私とお兄ちゃんの2人を育ててくれた、お母さん。

 お母さんはいつも仕事で忙しかったけど、必ず夕ご飯を作ってくれたよね。

 私とお兄ちゃんはアパートで、いつもお母さんの足音が聞こえるのを待っていました」

 

 小学生の時、僕はいつも日が暮れるまで野球をしており、学童保育にいる妹を迎えに行って、一緒に帰宅するのが日課だった。

 そして夕方、18時過ぎにお母さんが仕事から帰って来るのを二人で待ったものだ。

 

「お母さんは、仕事でどんなに疲れていても、私の話をいつも微笑みながら聞いてくれましたね。

 だから私はお父さんがいなくても、さみしくは無かったよ。

 うちはあまり裕福では無く、月一回のファミレスがご馳走だったけど、笑いが溢れる家族、という意味では、どこの家庭にも負けていなかったね。

 だから私はずっと幸せでした。

 お兄ちゃんに続き、私も結婚したことで、お母さんも肩の荷が降りたでしょう。

 これまでずっと、自分のことよりも、私とお兄ちゃんの事を気にかけていましたよね。

 生まれてから、これまでいっぱい愛情をくれた、大好きなお母さん。

 これからは自分の幸せも大事にしてくださいね。

 わたしはいつもお母さんの娘で良かったと思っているよ。

 これからもよろしくね」

 見ると、母親はハンカチで涙を拭いている。

 

 まだ若く、僕と妹が幼い頃、夫を亡くし、これまで良く僕らを育ててくれたと思う。

 本当に感謝してもしきれない。

 

「次に私のお兄ちゃんについてお話しします」

 何を話すつもりだ。

 先ほど兄妹喧嘩をしたし、嫌な予感しかしない。


 

 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る