第417話 僕の取り柄と役割について
僕の取り柄は、いい意味でプラス思考なところだと思う。
ピンチの時、僕はこっちに飛んでこいと願うタイプである。
こういうピンチの場面でしれっと好プレーすると、格好良いではないか。
エラーしたら?
その時はその時である。
神妙な顔して、頭を下げれば良い。
ピンチの場面での独特な緊張感。
球場内を包む、ピリピリした空気。
ショートの守備位置で、それを感じる。
バッターは3番の宮前選手。
そして庄司投手のシンカーを捉えた打球が三遊間を襲った。
僕は最短距離で追いつき、グラブの先で掴むと、セカンドへサイドスローで送球。
そしてセカンドのロイトン選手からファーストのダンカン選手に転送され、6-4-3のダブルプレー。
球場内が大きく湧いている。
三遊間を抜けてもおかしくない当たりだったが、無意識に体が打球に反応した。
そしてベンチに戻り、ベンチ前で待ち構えていた、ドンパの庄司投手とハイタッチした。
我ながら良いプレーだった。
2回まではバタバタした試合展開だったが、その後落ち着き、3回、4回と両軍とも無得点のまま、5回を迎えた。
この回の先頭は、トップバッターの岡谷選手。
泉州ブラックスのマウンドには、まだ先発の児島投手が上がっている。
ワンボール、ワンストライクからの3球目。
岡谷選手は児島投手のツーシームを捉えた。
そう岡谷選手にはこれがある。
忘れた頃の一発。
打球は大きな弧を描いて、センターのバックスクリーン横に飛び込んだ。
これで5対1。
点差は4点差に広がった。
よし僕も続こう。
チョイチョイ。
颯爽とネクストバッターズサークルから、バッターボックスに向かおうとすると、麻生バッティングコーチから手招きされた。
「わかっていると思うが、一応、聞いておく。
この打席のお前の役割は?」
「はい、岡谷選手に続いて連続ホームランを打つことです」
「ほう、なるほどな。
お前はホームランバッターだったのか。
知らなかった。よし、打てるものなら打ってこい」
「すみません、間違いました。僕の役割は粘って塁に出て、チャンスメークすることでした」
「おう、思い出してくれて嬉しいよ。
ということで、くれぐれも大振りしないように」
昔のプロ野球選手にはパンチパーマが多かったらしいが、今は絶滅危惧種となっている。
(シーズンオフのあるチームの納会が、ヤ◯ザの宴会と間違えられたこともあったらしい)
その中で麻生コーチは、現役時代から一貫してパンチパーマである。
ドスの聞いた低い声で、言われると僕としても直立不動で従わざるを得ない。
バッターボックスに入った。
児島投手が5点も取られるのは珍しい。
今日はかなり調子が悪いのだろう。
弱っているところを申し訳ないが、僕だって結果を求められる立場。
遠慮はしませんよ。
と気合を入れて打席に立ったが、ワンボール、ツーストライクからのスプリットを空振りしてしまった。
この打席の児島投手は付け入る隙を見せなかった。
やはり素晴らしいピッチャーだ。
よくさっきの打席ではタイムリーヒットを打てたものだ。
自分で自分を褒めてあげよう。
庄司投手は5回裏にも1点を失ったものの、結局5回2失点でまとめ、勝利投手の権利を持ったまま、マウンドを降りた。
6回からはおなじみKRDSが来るだす…。
戯言はこれくらいにして、試合は5対2のまま、8回表を迎えた。
児島投手は結局、6回5失点でマウンドを降りている。
この回の先頭バッターは2番の僕からだ。
ここまで3打数2安打、打点2番と爪痕を残している。
さあもう1本打ってやろうと、グラブを置き、バッティンググローブを手に嵌め、打席に向かおうとしたら、麻生コーチにまた呼ばれた。
「今日は大活躍で疲れただろう。ここは代打、湯川だ」
「いえ、大丈夫です。全く余裕です」
「遠慮するな。今日は休め」
「いえ、大丈夫です」
「いいから、休め」
「いえ、本当に大丈夫です」
「いいから、休めと言っているだろう」
ちょっと強めに言われた。
チェッ。
もう1本打ちたかったな。
まあ、チームの方針なら仕方が無い。
湯川選手にも出場機会を与えるということだろう。
この回の泉州ブラックスのマウンドには、僕と同年代の杉田投手が上がっている。
湯川選手は結局、セカンドゴロに倒れ、出塁はできなかった。
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