第523話 マウンド度胸
木崎選手への2球目。
内角高めへのストレート。
木崎選手は仰け反って避け、鈴鳴投手を睨んでいる。
当たればデッドボールだっただろう。
そして避け方が下手だったら、頭に当ったかもしれない。
鈴鳴投手は軽く頭を下げた。
これでツーボール、ノーストライク。
バントにしてもバスターエンドランにしてもやりやすいカウントだ。
木崎選手はまたバントの構えをしている。
そして3球目。
何と内角高めへのストレート。
木崎選手はバットを引いたが、判定はストライク。
さっき睨まれたのに、内角へ投げきる度胸は大したものだ。
木崎選手も真ん中または外角球を予想していたようだ。
そして4球目。
今度は外角低めへのスプリット。
木崎選手はバントの構えから、バッティングに切り替えた。
当てただけのバッティングになり、ファーストゴロ。
ダンカン選手が捕球して、一塁を踏んだ…と思ったら、ボールをポロリと落としてしまった…。
木崎選手は一塁セーフ。
ダンカン選手はバツの悪そうな顔をして、鈴鳴投手にボールを返球した。
鈴鳴投手は全く表情を変えず、そのボールを受け取った。
うん、それで良い。
味方のエラーにいちいち反応するよりも、次の打者に集中すべきだ。
ノーアウト一、三塁となって、迎えるのは好打者の弓田選手。
内野陣はダブルプレーシフトを敷いている。
ここは1点は仕方が無い、という守備形態だ。
せっかく僕のホームランで取った点なのにと思わなくも無いが、まあチームの勝利が最優先だ。
そして初球。
内角へのシュート。
弓田選手は打ってきたが、ファール。
2球目。
外角へのストレートか。
いや、カットボールだ。
これもファール。
2球で追い込んだ。
3球目。
ど真ん中へのストレート…、かと思いきやスプリットだ。
弓田選手のバットは空を斬った。
素晴らしい。
このピンチで3球勝負を選択し、見事投げ切った。
ここは交わすピッチングでは無く、大胆に行ったほうが良い結果となることもある。
気持ちで負けなかった。
だがまだワンアウト一、三塁で、バッターは4番の下條選手。
ピンチは続く。
そしてツーボール、ワンストライクからの4球目。
真ん中低めへのスプリットをうまく捉えた。
強い当たりがショートを襲う。
だが残念、そこには高橋隆介。
三遊間に抜けるかという強い当りを、うまくバウンドを合わせて体の横で捕球し、セカンドの湯川選手へ送球し、フォースアウト。
そして湯川選手はファーストに送球し、バッターランナーもアウト。
鈴鳴投手はノーアウト一、三塁の大ピンチを見事に無失点で抑え、勝ち投手の権利を手に入れた。
昨年プロ初勝利は挙げているが、
その時は谷口の逆転満塁ホームランなど、大量援護点に助けられたもの(少なくとも本人はそう思っているようだ)であり、今回は自力で5回無失点に抑え、勝ち投手の権利を手に入れた。
これは胸を張って良いと思う。
あとはきっとKLDSの先輩方が抑えてくれるだろう。きっと。
そして6回は鬼頭投手、7回はルーカス投手、8回は大東投手が京阪ジャガーズ打線を無失点に抑え、いよいよ9回表を迎えた。
点差は1対0のまま。
このまま勝っちゃったら、もしかしてヒーローインタビューは、鈴鳴投手と僕か?
何を話すかな、とマウンドで投球練習をしている新藤投手を見ながら考えていた。
すると新藤投手は期待に答え(?)、フォアボール3つでノーアウト満塁のピンチを背負ってしまった。
今シーズンも新藤劇場は健在である。
僕ら内野陣はマウンドに集まった。
「しびれる場面だろ。
俺の見せ場がやってきたな。
ここを抑えてこそ、抑え投手の醍醐味だ」
新藤投手がグラブで口元を隠しながら言った。
そうでしょうか。
こういうのを自作自演というのでは…。
「ということで、9回裏、逆転頼むぞ」
逆転される前提かい…。
僕は心の中で突っ込んだ。
いつも思うが、こうしてマウンドに集まることは意味があるのだろうか。
まあ、投手に一息入れさせるという事か。
輪がほどけ、僕らは守備位置に戻った。
さあ僕は今日、ヒーローインタビューを受けられるでしょうか。
次回に続く。
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