第501話 10年目の矜持

 四国アイランズ2連戦も僕はベンチを温め、出場は無かった。

 それにしても名塚選手は好調にも程がある。

 ここまで途中出場も含めて、全7試合に出場し、18打数11安打の打率.611。

 

 走力、守備力は僕が勝っている自信はあるが、右へ左へのシェアなバッティングはさすが期待の大型新人だ。

 昨年は湯川選手、今年は名塚選手と北畠選手、そして新外国人のブランドン選手。

 次から次に現れる強力なライバル達。

 

 改めてプロでレギュラーを張るのは大変だと思う。

 でも僕はその厳しい世界で、9年以上も生き残ってきたのだ。

 負けるつもりはサラサラ無い。


 次は岡山ハイパーズ2連戦。

 1試合目は8回裏の守備からの出場で打席は回ってこなかった。

 

 そして2試合目はショートでのスタメン出場だった。

 この試合は3打数ノーヒットだったが、ヒット性の当たりを好捕された打席もあり、決して感触は悪くなかった。

 

 ここまでオープン戦6試合に出場し、8打数ノーヒット。

 正直なところ、焦りの気持ちが全く無い、と言ったら嘘になる。

 しかしこれまでもこのくらいのスランプは度々あったし、いずれも克服してきた。

 今回も一生懸命にやっていれば克服できるだろう。

 次は札幌での静岡オーシャンズ2連戦。

 今季初の本拠地での試合だ。


 新千歳空港上空に差し掛かり、窓から下を見ると、出発した時に比べてかなり雪融けが進んでいた。

 森は地肌が少し見えるようになっているし、道路も車道はほとんど雪が無い。

 空港を出ると、暖かい陽光を感じた。

 空を見ると、少し眩しい。

 北海道にも春の気配が漂っている。


 静岡オーシャンズとの初戦。

 相手先発はエースの北岡投手。

 かって同じチームで戦った仲間であり、可愛がってくれた先輩だ。

 きっと不調の僕を打たせてくれる…、わけはもちろん無い。


 1回裏の打席は三球三振だった。

 ストレート、ツーシームで追い込まれ、3球目はチェンジアップにバットが出てしまった。

 調子良いときなら、見極めれたボールかもしれない。

 まあ仕方ない。

 次、次。


 2回表、3回表と一回ずつあった守備機会を軽快にさばいた。

 決してコンディションは悪くない。

 良いんだ。

 ピークを開幕に持っていければ。


 3回裏に2打席目がまわってきた。

 静岡オーシャンズのマウンドは引き続き、北岡投手。

 この打席もワンボール、ツーストライクと追い込まれ、4球目のスピリットに空振りしてしまった。

 これで10打席ノーヒット。


 そして迎えた5回裏の打席。

 静岡オーシャンズのマウンドは松村投手に変わっている。

 なお6回からは北畠選手に替わることを告げられているので、今日最後の打席だ。

 松村投手はシンカー、ツーシーム、カットボールなど多彩な球を操る右腕だ。


 初球、シンカー。

 内角低めに決まった。


 2球目。

 外角へのツーシーム。

 これは見極めた。

 ワンボール、ワンストライク。


 そして3球目。

 内角高めへのストレート。

 僕はコンパクトに振り抜いた。


 打球はサードの新外国人のレインズ選手がグラブを伸ばした、その先を掠め、レフト線上に弾んでいる。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。

 11打席までのオープン戦初ヒット。

 ようやく一本出た。


 そして次の東京チャリオッツ戦でも僕はスタメン出場し、2試合で6打数4安打。

 一気にオープン戦通算打率を、17打数5安打、打率.294とした。


 そして好調だった名塚選手は、オープン戦の中盤が過ぎ、一線級のピッチャーが出てくると、パタッと打てなくなり、31打数12安打、打率.387まで下がってきた。

 これでも十分に高打率ではあるが、ここ最近は13打数1安打と調子を落としている。


 そして3月22日でオープン戦が終わった。

 あとは3月29日の開幕を待つだけである。

 僕は結局、28打数8安打の打率.286とオープン戦中盤から盛り返した。


 名塚選手は結局、40打数13安打、打率.325と3割はキープしたものの、開幕一軍には残れなかった。

 北畠選手もオープン戦序盤には幸先よく、ホームランを放ち、安定した守備を見せたものの、やはり開幕は2軍スタートとなった。

 やはり新人がいきなり戦力になるほど、プロの世界は甘くないのだ。

 

 開幕戦の前日の最終ミーティングで、スタメン発表があった。

「1番、ショート、高橋」

 良し、幸先よくスタートを切れそうだ。

 僕はいよいよ始まる10年目のシーズンにワクワクしていた。

 

 

 

 


 

 

  

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