第502話 いよいよ開幕
開幕戦。
何度経験しても、特別なものがある。
今年はホームでの開幕戦であり、相手は川崎ライツだ。
球場入りすると、既に球団スタッフの方が慌ただしく動いており、華やかさの中にも厳かな雰囲気を感じる。
記者の方やカメラマンもいつもより多いし、キー局の女性アナウンサーも見かけた。
「よお、今シーズンもよろしく」
ロッカールームに入ると、既に谷口がユニフォームに着替え終えたところだった。
相変わらず早い。
谷口も今日は6番レフトでのスタメンを告げられている。
10年目の開幕戦で、谷口と一緒に、しかも静岡オーシャンズ以外でスタメンを張るなんて、プロ入り時は想像できなかった。
1年目は2軍ですら、20試合でヒット3本(22打数)しか打でなかった。
そう考えると、今が夢みたいだ。
僕は思い立って、頬をつねってみた。
普通に痛い。
ちょっと強くひねり過ぎた。
とりあえず夢ではないようだ。
試合開始は18時であるが、今日は開幕戦とあって、各選手の球場入はいつもより早い。
13時にはほとんど全員が揃っていた。
開幕投手はエースの青村投手。
昨年のシーズンMVPであり、今シーズンオフには大リーグ挑戦が噂されている。
ブルペンに向かうところを見かけたが、険しい表情をしていた。
青村投手ほどの実績を残していても、開幕戦はやはり緊張するのだろう。
そして全体練習、ミーティングがあり、いよいよ試合時間が近づいてきた。
今日のスタメンは以下のとおり。
1 高橋(ショート)
2 湯川(セカンド)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 谷口(レフト)
7 キング(ライト)
8 武田(キャッチャー)
9 青村(ピッチャー)
こうしてみると、昨年とあまり代わり映えのしない面々だ。
唯一、新外国人のキング選手がライトに入っているくらいか。
キング選手は均整の取れた体つきをした、俊足、強肩の外野手である。
札幌ホワイトベアーズの外野は昨シーズン、センターの下山選手とレフトの谷口がほぼ固定されていたが、ライトは岡谷選手、駒内選手、西野選手、水木選手、九条選手などが日替わりで出場していた。
チームとしても外野は補強ポイントと考えており、昨秋のドラフトでは社会人と高卒の外野手を1名ずつ獲得したが、即戦力としてキング選手を獲得したのだ。
川崎ライツの先発は、エースの横田投手。
ストレートが武器の本格派の左腕である。
いよいよ試合開始時間が近づき、一人一人スタメン選手の名前が呼ばれ、守備位置につく。
僕も名前を呼ばれると同時にベンチを飛び出し、スタンドにサインボールを投げ入れてから、ショートの守備位置についた。
さあいよいよだ。
有名コメディアンの始球式の後、プレイボールがかかった。
川崎ライツの1番は、俊足の高野選手。
初球を捉えた打球が三遊間に飛んできた。
僕は回り込んで捕球し、一塁に送球した。
間一髪アウト。
幸先良いスタートを切れた。
2番は自主トレ仲間の与田選手。
フルカウントからのスプリットをバットに当ててきた。
今度はボテボテのゴロがピッチャーの横を抜けてショート正面に飛んで来た。
ダッシュし、ボールを素手で拾い、ファーストに送球。
これも間一髪アウト。
球場内が大きく湧いている。
お安い御用です。
僕は澄ました顔で、ボール回しに加わった。
難しい打球を簡単に処理したように見せるのがプロである。
3番の鈴木選手については、青村投手が三振を奪い、この回は三者凡退に抑えた。
さあ次は攻撃の番。
僕にとってもチームにとっても今季初打席だ。
僕は軽やかな足取りで、ベンチに戻った。
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