第302話 九回裏の攻防

 1点を勝ち越した9回表、札幌ホワイトベアーズは当然ながら、逃げ切りを図る。

 抑えは新藤投手だ。


 マウンドに上がった新藤投手はツーアウトから、4番のエバーランド選手に起死回生のツーランホームランを浴びてしまった。

 これで4対3。

 やはり簡単には勝たせてくれない。

 僕はショートの守備位置で、打った瞬間ホームランとわかる打球を見上げながら、そう思った。


 試合は4対3のまま、9回裏を迎えた。

 札幌ホワイトベアーズの9回裏の攻撃は5番の下山選手からの打順だ。

 熊本ファイアーズのマウンドには、今季から抑えに回った右腕の成松投手が上がった。

 150km/hを越えるストレートに、落差の大きいフォーク、そしてチェンジアップ、スライダー、シンカーも使う好投手だ。

 ストレート、フォークが強力な上に、多彩な変化球も投げるので、的を絞りづらい。


 この回の先頭バッターの下山選手は意外性の男と言われている。

 毎年打率は.270〜.280程度でホームランも15本前後だが、打点はここ数年70以上はあげている。

 足もそこそこ速く、毎年コンスタントに二桁盗塁をしている。

 

 初球を簡単に打ち上げる事もあれば、粘りに粘って四球を勝ち取ることもある。

 目の醒めるような打球を放つこともあれば、セーフティバントをすることもある。

 その打席によって、何をしてくるかわからない、味方としては頼もしい選手だ。


 9回の先頭バッターということで、下山選手は何としても塁に出ることを意識しているようで、フルカウントまで粘り、そこから更に2球、ファールを打った。

 そして8球目。

 外角低めへのストレートを見極め、フォアボールを勝ち取った。


 続く6番打者は西野選手。

 器用なバッターで、1、2番を打つこともあれば、下位打線を打つこともある。

 打順に即した、バッティングをすることができる巧打者である。

 ここは送りバントか。


 ベンチのサインはヒットエンドラン。

 まるでイケイケの泉州ブラックスみたいだ。

 西野選手は最初から送りバントの構えをしている。


 サードの伊集院選手がやや前に来ている。

 初球。

 チェンジアップ。

 西野選手はバントの構えから、バットを引いて、一塁側に打ち返した。


 強いゴロになって、セカンドの玄田選手の右を抜けた。

 下山選手はスタートを切っており、三塁に進んだ。

 ヒットエンドラン成功で、ノーアウト一、三塁の大チャンスだ。


 7番は今日、プロ初スタメンの光村選手。

 今日はここまでノーヒットである。

 内野ゴロでも1点となる美味しい場面だ。


 光村選手への初球。

 一塁の西野選手がスタートを切った。

 熊本ファイアーズの大隅捕手は二塁に投げなかった。

 スタートが良かったし、下手に二塁に投げて、三塁ランナーがホームインするリスクを考えたのだろう。

 これでノーアウト二、三塁とチャンスは更に拡大した。


 光村選手への投球は、ストライクゾーンギリギリをついてきたが、いずれもボールとなり、スリーボール、ノーストライクとなった。

 ここで熊本ファイアーズバッテリーは満塁策を選択した。

 

 札幌ホワイトベアーズとしてはノーアウト満塁、一打サヨナラの大チャンスである。

 迎えるバッターは、バッティングには定評がある上杉選手。

 しかしここは成松投手が踏ん張り、三振となった。


 9番はピッチャーの打順であり、ここで札幌ホワイトベアーズは代打として、ロイトン選手を指名した。

 引き続き、ワンアウト満塁のチャンスだ。


 しかしながらロイトン選手は力んだのか、初球をショートに打ち上げてしまった。

 これでツーアウト満塁。

 次の打者は…、僕だ。


 さっき内野安打を打ったとは言え、当たり損ないであり、まだ本調子にはほど遠い。

 僕はネクストバッターズサークルから、バッターボックスに向かう前にベンチを見たが、代打は無さそうだ。


 僕は一度大きく深呼吸し、打席に入った。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る