第473話 追加点の大チャンス

 6回表で2対1で、1点リード。

 6回裏からは、おなじみのKLDSに託すとしても、もう1点取っておきたいところだ。


 そんな状況で、ノーアウト一、三塁のチャンスである。

 しかもランナーは、いずれも俊足の野中選手と僕。

 こんな美味しい場面で、バッターボックスに入るのは谷口。


 谷口はバントも上手いので、当然、相手ベンチはスクイズを警戒するだろう。

 だが宗投手もここは全力で抑えに来る。

 あの速球をバントするのは簡単ではない。

 さてどうするのかな。

 僕は一塁ベース上で、ベンチのサインを見た。


 サインは盗塁。

 まあそうだよね。

 ここはランナー二塁、三塁にしておきたい場面だ。

 そうしておけば内野ゴロでも、多分1点は入る。


 すると宗投手から4球立て続けに牽制球が来た。

 しっつこいね。

 まあ、相手チームとしては僕を二塁に進めたくないのだろうけど。


 ようやく宗投手が谷口への初球を投げた。

 そしてその瞬間、当然僕はスタートを切る。

 相手の城戸捕手は送球してこなかった。

 三塁の野中選手の動きを気にしたようだ。


 これでノーアウト二、三塁。

 谷口、わかっているだろうな。

 ここは最低でもバットに当てろよ。

 ちなみに先程の投球は、外角ギリギリに決まり、ストライクワン。


 2球目。

 外角へのツーシーム。

 谷口はバットが出なかった。

 素晴らしい高さ、コースに決まった。


 これでカウントはノーボール、ツーストライクだ。

 追い込まれた。


 そして3球目。

 ど真ん中へのストレートを谷口は空振りした。

 球速は163km/h。

 宗投手は会心の投球だろう。

 谷口は悔しそうな顔でベンチに下がっていった。


 これでワンアウト二、三塁となったが、チャンスはまだ続く。

 バッターは道岡選手だ。

 勝負するか、申告敬遠でランナーを埋めて、4番のダンカン選手と勝負か。


 京阪ジャガーズの内野陣はマウンドに集まっている。

 2対1という点差を考えると、ここは是が非でも無失点で切り抜けたいところだろう。

 チャンスに強い道岡選手と勝負するか、満塁策を取って4番のダンカン選手と勝負するか。


 輪がほどけた。

 さあどうするか。

 僕は二塁ベース上で、宗投手、そして城戸捕手の動きを見ていた。

 どうやら申告敬遠のようだ。

 ここは満塁策を取ったほうが抑える可能性があると判断したのだろう。

 確かにこの場面、2失点も3失点もあまり変わらないかもしれない。

 0で抑えることが一番重要と判断したのだろう。


 ダンカン選手への初球。

 外角へのストレート。

 打ちにいったが、ファール。

 球速は161km/hが出ている。


 2球目。

 今度は内角高目へのストレート。

 ダンカン選手はやや仰け反った。

 判定はボール。

 これでワンボール、ワンストライク。


 3球目。

 今度は外角へのストレート。

 ダンカン選手は見送ったが、判定はストライク。

 2球目の内角攻めが効いているのだろう。

 ダンカン選手は首を傾げている。

 かなり遠く見えたようだ。


 そして4球目。

 内角低目へのスプリット。

 ダンカン選手は捉えたように見えたが、ライトライナー。

 二塁ランナーは戻れず、ダブルプレー。

 宗投手はかなり大きなガッツポーズをしており、ダンカン選手は悔しそうにホームベースをバットで叩いた。 


 札幌ホワイトベアーズはノーアウト二、三塁という、大きなチャンスを逃した。

 これがこの試合、どのように効いてくるか。


 2対1で札幌ホワイトベアーズが1点リードしたまま、6回裏の京阪ジャガーズの攻撃を迎えた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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