第329話 束の間の休息

 交流戦は10勝8敗と2つ勝ち越して終えた。

 新潟コンドルズには、高校時代のチームメートの平井と葛西がいるが、二人とも二軍にいたため、会うことはできなかった。


 葛西は今季がプロ2年目であり、ルーキーの時は一軍の試合にも多く出たが、今シーズンは開幕一軍を勝ち取ったものの、4月中旬からずっと二軍である。

 

 そしてもっと立場が苦しいのが、平井である。

 平井は昨シーズン途中で、熊本ファイアーズから、新潟コンドルズに移籍し、終盤にホームランを打って今期の契約を勝ち取った。

 しかしキャンプ中に故障し、最近ようやく二軍の試合に出るようになったが、出番は少なく、未だ二軍でもノーヒットである。


 熊本ファイアーズ時代は打率は低かったものの、ホームランを10本を打ったこともあり、将来の主砲として期待されていた。

 しかしながら、なかなか確実性が上がらず、年々出場機会を減らしている。


 高校時代は東の谷口、西の平井と並び称された存在であったが、今シーズン、2番打者として新境地を切り開いた谷口と対象的に、プロ野球選手として正念場に立っていると言えるだろう。

 僕も人のことを心配できる立場では無いが、平井には頑張って欲しいと思う。


 さて交流戦が終わると、束の間の休みがある。

 雨で中止になった試合の振替日として、4日間ほどリーグ戦再開まで空けているのだ。


 今シーズンは札幌ホワイトベアーズは雨で中止の試合は無かったので、丸々4日間試合が無い。


 もっともチーム練習はあるが、僕は間の2日間は免除にしてもらっていた。

 というのもこの間に結衣と翔斗が札幌に引っ越してくるのだ。


 荷物の梱包やトラックへの積み込み、積み下ろし、設置は全て引越業者にお願いした。

 金額的には高くついたが、家具の設置や荷物の取り出し、収納までやってくれるコースにした。


 僕はあまり手伝えなかったが結衣のご両親と僕の母親が手伝いにに来てくれた。(妹も来たがただの足手まといだった。

 そのくせ、試合で活躍してもらった商品券等の金券類はちゃっかり持って帰った)


 引っ越しの荷物を搬出し、ガラーンとなったマンションを見ていると何とも言えない寂しさが込み上げてきた。

 この家には2年ちょっとしか住まなかったが、その間に翔斗が生まれたり、札幌ホワイトベアーズにトレードになったり、色々な事があった。

 

 景色が良く、遠くに海が見えるのも気に入っていた。

 特に夜景が最高で、ナイターから帰ってきてバルコニーから見るのが好きだった。

 夏の花火大会は結局、試合で見れなかったが…。


 札幌では球場から車で約30分程度の場所にマンションを借りた。

 札幌も家賃が上がっていると聞いていたが、大阪よりもかなり安く部屋も広かった。

 

 札幌は生活するのにも、球場へ通うのにも車が必須である。

 プロ野球選手と言えば、やつぱりベンツだよね、と結衣と交渉したがあえなく却下された。 

 その際にはこれから翔斗を育てるためにかかるお金を一覧表で見せられた。

 

 しっかりした奥さんを持って僕は幸せだ…。

 その傍らでは翔斗が静岡オーシャンズのマスコットのイルカのぬいぐるみを抱えて遊んでいたが、結衣の言葉に頷いているように見えたのは気のせいだろうか。


 ペナントレースが再開となり、最初の対戦カードはホームでの川崎ライツ戦だ。

 今日からは新居から球場に向かう。

 ここまでの僕の成績は、チーム57試合中54試合に出場し、233打数64安打の打率.275、ホームラン2本、打点16、盗塁15(盗塁死6)。

 まだシーズン半ばにもなっていないが、ヒット数は昨年の75本に後11本と迫っている。


 規定打席にも到達しており、リーグでも12位の成績であり、チームでも道岡選手の.293に次いで高い率を残している。

 

 我ながらプロに入った時のことを思うと、良くここまで来たものだと思う。

 一歩一歩、ゆっくりとだが着実に歩を進めてきた。

 入団時は正直なところ、えらいところに来てしまったと思ったし、自分が一軍でレギュラーを取るなんて、夢のまた夢だった。


 これも僕だけの力ではなく、山城コーチを始め、多くの方に指導、サポートして頂いた賜物と思っている。

 僕が一軍で活躍する姿を見せることが、最大の恩返しだと思う。

 もっとも山城さんは、僕の活躍する姿を見るよりも、蟹とかメロンを貰った方が嬉しいらしいが…。


 僕は山城さん宛に、メロンとトウモロコシの詰め合わせ加え、大きな熊の置物を入れて、球場に向かう途中の郵便局から送った。

 山城さんの驚く顔が目に浮かぶようだ。

 僕はほくそ笑みながら、球場に向かった。

 


 

 

 

 


 

 



 

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