第58話 全ては自分の弱さを認めた時に始める
記録が訂正されたことにより、僕の今シーズンの成績は、3試合に出場し、6打数の2安打。
打率.333。
繰り返す。打率.333。
三割打者。
うーん、良い響きだ。
この勢いで、このまま一軍に居座りたい。
東京チャリオッツ戦でスタメン出場してから、次のスタメン機会は中々貰えなかった。
セカンドのスタメンは、トーマス、飯田選手、野田選手が相手投手との相性等を考慮して、日替わりで出場し、僕はベンチ待機であった。
それでもその後の9試合で代走で3試合、セカンドの守備固めで1試合に出場し、ここまでシーズン通算では7試合の出場となった。
一軍登録日数は2週間となり、一軍最低年棒との差額の日割り分が約7万円分なので、100万円くらいのお金が貰える。
やはりプロは夢がある。
何しろ来年は僕のハムスターみたいな妹が高校を卒業し、専門学校か大学に進学するので、学費を貯めなければならない。
(妹の容姿がハムスターに似ているわけでは無く、小柄でちょこまかちょこまかとせわしなく動き回る様が、ハムスターを連想させるということだ。)
ちなみに原谷さんはプロ初ホームランの後、スタメンと代打で2試合に出場したが、5打数ノーヒット、パスボール2つ、盗塁刺一つで一足先に二軍に戻っていった。
強肩強打の持ち味は発揮したが、キャッチングに課題があることが露呈した。
がっかりはしていたが、それでもプロ初打席、初ホームランは自信になったようで、「I Shall Return」との言葉を使用していたロッカーの隅に小さく書き残して去って行った。
さて、チームは新潟コンドルズとの試合に向けて、新潟入りをした。
いつ二軍に戻れと言われるか、ビクビクしているが、今回も新潟遠征のメンバーに入った。
「明日の試合、スタメンで行くからな。準備しとけ。」
新潟に到着し、乗り込んだバスの中で市川ヘッドコーチに突然告げられた。
今シーズン三回目のスタメン。
結果を残して、一軍に定着の足がかりにしたい。
翌日告げられたのは、まさかの9番ショートだった。
どうやら前のカードで、レギュラーの新井選手が自打球を右足に当て、また控えの勝山選手がデッドボールを受けて打撲したことにより、僕にお鉢が回ってきたようだ。
結論から言うと、この試合、打っては3打数ノーヒット、送りバントを一つ失敗。
これでシーズン通算打率は9打数2安打、.222に落ちた。
守ってはゴロを弾くエラーを2つ犯してしまった。
7回には飯田選手と交代となり、試合終了後に二軍へ強制送還を告げられた。
結果が全てのプロ野球。
言い訳はしないし、できない。
慢心と言われれば、そうかもしれない。
自分で気づかないうちに一軍にいることに慣れてしまったのかもしれない。
またやり直しだ。
僕と入れ替わりに一軍に上がったのは、内沢選手。
長く続いた不調を抜け出しつつあるようで、二軍での打率が.270まで上がっていた。
僕は二軍に戻ってから、ミニキャンプというか、今一度走り込みすることにした。
僕が一軍に定着出来ない原因は、技術面だけでは無いのかもしれない。
自分で言うのも何だが、ヒット性の難しい打球を幾つも処理した。
グラブにボールが入るまで、目を切らないことを常に意識した。
それでも新潟コンドルズ戦で、2つのエラーを犯した。
一つ目はダブルプレーを取るために慌ててしまった。
二つ目は打者が俊足のため、慌ててしまった。
今、僕は自信を喪失している。
二軍に降格を告げられた時、正直に言うと、がっかりする前にホッとしてしまった。
次に試合に出たら、またエラーするような予感がしていた。
そして打席に立っても打てる気がしなかった。
僕は高校時代、全国制覇のメンバーであり、大舞台を経験し、それなりにメンタルが強いと思っていた。
だが一軍に出場して、僕は自分自身の新たな一面に気づいた。
それは認めたくない一面でもあった。
「全ては、自分の弱さを認めた時に始まる」
昔、何かのマンガで読んだ言葉を思い出した。内容は覚えていないが。
今の僕には余計な事を考えずに、無心で何かに取り組む時間が必要なんだと思う。
僕は寮に戻り、部屋に荷物を置いて直ぐにジャージに着替え、小雨の中、寮の周りを走り出した。
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