第30話 宮崎にて

 翌朝、僕は宮崎フェニックスリーグに参加するメンバーと共に宮崎入りした。

 宮崎空港を出ると、気持ちの良い青空が広がり、気温も20℃前後と過ごしやすい気候だった。

 ドラフト同期では谷口、原谷さんが参加していた。

 基本的に若手に試合経験を積ませるのが目的なので、既に一軍で実績のある杉澤さんや、竹下さんは参加していない。


 翌朝、ホテルのロビーでスポーツ新聞を読んだ。

 静岡オーシャンズの戦力外通告の記事が載っており、やはり飯島さんは戦力外だった。

 他にも高卒四年目の外野手や、同じく五年目の投手など、5人が戦力外通告を受けたとのことだ。

 やはり厳しい世界だ。

 谷口はともかく僕や三田村、原谷さんは下手すると来年あたり戦力外になってもおかしくない。


「やはり飯島さんは戦力外か…。」と僕が読んでいた新聞を原谷さんが覗き込んだ。

「ええ、原谷さんは知っていたんですか。」

「ああ、俺は飯島さんの球を受ける機会も多かったからな。

 何となく感じていたよ。今年で最後のつもりだってこと。」

「寂しいですね。」

「まあな。でも俺らは個人事業主だからな。

 誰がいつクビになってもおかしくないさ。

 だからそれぞれが悔いの無いようにやるしかない。

 飯島さんは自分でやり切ったと思えたのならば、良かったんじゃないか。」

 なる程、原谷さんにしては珍しく良いことを言う。

「俺も肩が治ったし、そろそろ実績残さないとな。」と言って、さっき僕が買って、横に置いていた缶コーヒーを自然な動作で持ち去って行った。

 肩よりも先にそういう所を直して下さい。


 今日の試合は、シーリーグの熊本ファイアーズとの試合だ。

 熊本ファイアーズは一軍も二軍も静岡オーシャンズとはリーグが違うので、試合をやる機会が少ない。


 球場につくと、向こうから体格の良い色黒の男が近づいてきた。

「よお、元気だったか。」

「誰かと思ったら、ゴリラ男か。」

 高校の同級生の平井だった。

 平井はドラフト2位で熊本ファイアーズに入団していた。

 

「誰がゴリラ男だ。

 お前こそ、ちゃんと飯食っているのか。相変わらずヒョロヒョロしているな」

「俺がお前みたいになったら、走ることも守ることも出来ないだろう。」

「まあそれもそうか。

 そう言えば、一軍デビューおめでとう。

 一生の良い記念になったな。

 これでいつ辞めても悔いは無いだろう。」

「うるさいよ。お前こそ、そろそろソロホームラン以外打てよ。」

 平井は今年は一軍での出場機会が増え、43試合に出場して、打率こそ.168(95打数16安打)だが、ホームランは7本放っていた。

 だが全てソロホームランであり、ランナーを置いたときの打撃が大きな課題だった。

「そうなんだよな。何でプロのピッチャーって、ランナーがいるとギアが入るんだろう。

 俺の苦手なコースばっかり投げてくるんだよな。」

 そりゃ相手もプロだからな。

「ランナーいる時は、軽打も意識したら良いんじゃねぇの?」

「そんな器用な事が出来たら、苦労しねぇよ。

 おっと、間もなく集合時間だ。

 じゃあまたな。」と平井はでかい体に似合わない小さな腕時計を見て、小走りで去って行った。


 その日の試合、僕は一番セカンド、平井は五番ファーストでそれぞれ先発出場した。

 初回に僕は幸先良く、ライト線にツーベースヒットを放った。

 段々と右打ちの特訓の成果が出てきたようだ。

 そして平井は一、二打席目にチャンスで凡退したが、第3打席にソロホームランを打った。

 相変わらずランナーがいなければ打つな。

 僕はセカンドから打球の行方を見守りながら、そう思った。


 宮崎フェニックスリーグでは、僕は13試合に出場して、47打数14安打で打率.298だった。

 相手が若手主体とは言え、三割近く打てたことは自信になる。

 

 あー、宮崎は良いな。

 空は青いし、気候もカラッとしている。今度は観光で来たい。

 食事も宮崎牛にチキン南蛮、そして完熟マンゴー。

 これまであまりマンゴーを食べる機会が無く、こんなにジューシーで美味しいものとは知らなかった。

 

 さて静岡へ帰ったら、今年も楽しい秋季キャンプのTK組だ。

(光栄にも今年もメンバーに選ばれた。ちなみに谷口は免除…。何故、僕だけ…。)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

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