第587話 大平監督の最後の采配
そう言えば、先日のホーム最終戦の事を話すのを忘れていた。
タイトルを獲得して、大リーグ挑戦をするにしても、それが叶わずトレードに出されるにしても、どさんこスタジアムをホームとして迎える試合はこれが最後となる。
結衣と翔斗、僕の母親と結衣の両親、そして静岡オーシャンズの三田村トレーナーの奥さん、そして僕のファン第一号一家を球場に招待した。
試合は3対5で敗れたが、終了後、セレモニーがあった。
シーズン4位が確定しており、何とも形容しがたいセレモニーになる…と思われたが、サプライズがあった。
何と大平監督が今シーズン限りでの辞任を発表したのだ。
今シーズンはBクラスになったが、就任以来ほとんどのシーズンで優勝争いに加わり、功績は大である。
一方でレギュラーメンバーが固定されており、若手が伸びていないのもまた確かであり、後任にチーム再建を託すということだ。
青村投手が大リーグ挑戦し、チームきってのスピードスターで、頼れる切り込み隊長の人気選手(作者注:自称)も退団が必至であり、長年中心選手であった、道岡選手にも衰えが見え、その後任監督は大変だと思う。
ということは今日の京阪ジャガーズ戦は、大平監督にとっても最後の采配となる。
勝って有終の美を飾りたいところだ。
京阪ジャガーズの先発はエースの車谷投手。
京阪ジャガーズは優勝は逃したとは言え、クライマックスシリーズでの下克上を狙っている。
この試合、車谷投手、加藤投手、宗投手の3本柱を継投させるようだ。
盗塁を決めるには、とにかく出塁をすることである。
僕は気合を入れてバッターボックスに入った。
サードの守備位置を見ると、明らかにセーフティバントに警戒している。
これだけ警戒されていれば、余程良いバントをしないと成功しないだろう。
仕方がない。
打つしかない。
初球。
真ん中低めへのツーシームか。
自然とバットが出た。
打球はライナーでレフトに飛んでいる。
レフトの弓田選手がバックしている。
抜けてくれ。
僕的にはここはシングルヒットが
欲しい場面だが、プロ野球選手の性
として一つでも先の塁に進みたい。
薄暮れのナイターとあって、一塁ベース付近で僕は打球の行方を見失った。
だがスピードを緩めず、セカンドに向かう。
歓声が上がったが、それほどおおきくはない。
アウェーの試合なので、もし捕球されてアウトになっていたら、大歓声が上がるはずだ。
ということは落ちたのか?
二塁ベース手前で、三塁コーチャーを見ると、手を叩いている。
意味不明。
回っていいのか、悪いのか。
ふと三塁塁審を見ると、腕を回している。
あ、そういうことね。
僕はスピードを緩め、ゆっくりと三塁ベースを回ってホームインした。
今シーズン第9号ホームラン。
ライナーでレフトスタンドに飛び込んだということか。
ここはシングルヒットが欲しかったが、贅沢は言ってられない。
京阪ジャガーズファンからのため息を背中に心地よく感じながら、僕はゆっくりとホームインした。
1点を先制後、後続が倒れ、1回裏となった。
先頭バッターは、盗塁王争いをする中道選手だ。
青村投手、お願いしますよ。
絶対に塁に出さないで下さいね。
そして初球。
中道選手の捉えた打球がショートに飛んできた。
僕は回り込んで捕球し、踏ん張って1塁に送球した。
「アウト」
良かった。
間に合った。
塁に出さなければ盗塁されることもない。
ショート、ナイスプレー。
誰も褒めてくれないので、僕は自分で自分を褒めた。
この回は青村投手が三者凡退に抑え、2回表裏も無得点で、試合は3回表を迎えた。
この回は8番の武田捕手からの打順であったが、簡単にツーアウトとなり、僕の打順を迎えた。
さあ今度こそ、出塁したい。
粘りに粘って、フォアボールを勝ち取ってやる。
気合を入れて、僕はバッターボックスに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます