第521話 流れを変えたい
僕のエラーにより、鈴鳴投手は、ノーアウト二塁のピンチを背負ってしまった。
次は大リーグ通算227ホームランの強打者、スピン選手。
さすが京阪ジャガーズ、次から次へと良いバッターが出てくる。
京阪ジャガーズは昨シーズン優勝を逃したのが、余程悔しかったと見えて、現役大リーガーだったスピン選手と契約したようだ。
年俸は5億円を越えていると噂されている。
スピン選手は身長が190cmくらいあり、均整の取れた体つきをしている。
さすが元大リーガー。
バットを構えると、打ちそうな雰囲気が漂っている。
鈴鳴投手はコースギリギリをついて攻めたが、結局、ストレートのフォアボールを与えてしまった。
これでノーアウト一、二塁で、次は勝負強い浅井選手。
2番を打つことあるように、足が速い上に、長打力もある嫌なバッターだ。
そしてその浅井選手もフルカウントからフォアボールで歩かせてしまった。
これでノーアウト満塁。
僕ら内野陣はマウンドに集まった。
「どうだ、調子は」
上杉捕手が鈴鳴投手に声をかけた。
「はい、悪くはありません。
ただコースを狙いすぎましたね」
「まあ、仕方がないさ。
甘い球を投げると、見逃してはくれない」
「まあ次の天野は長打力はそれほどない。
一人ひとり確実に抑えていこう」と道岡選手。
僕はピンチの原因となるエラーをしたこともあって、気配を消して黙っていた。
「打たせていきますから、よろしくお願いします」と鈴鳴投手は言った。
「おう任しとけ、な、高橋」
道岡選手に急に話しを振られた。
「は、はい。もちろんです。
鈴鳴、ショートへ打たせてくれ。
3度目の正直だ」
「そうそう、その意気だ。
鈴鳴、フォアボールだけは出すなよ」
「はい、野手の皆さん、よろしくお願いします」
「オゥ」
「OK」
ファーストのダンカン選手も意味がわかっているのかわからないが、大きくうなづいた。
そしてここからが鈴鳴投手はすごかった。
7番の天野選手以下、3人から連続三振を奪った。
ノーアウト満塁のピンチを見事無失点で切り抜けた。
良かった、良かった。
チェンジになり、僕はなるべく気配を消してベンチに戻った。
次は僕からの打順だ。
守備の失敗を取り戻してやる。
僕はヘルメットを被り、気合を入れて、バッターボックスに向かった。
京阪ジャガーズのマウンドには引き続き、先発のピーター投手。
第一打席は良いバッティングをしたものの、向田選手の好捕に阻まれた。
今日の試合はいろいろとついていない。
自らの力で、悪い流れを断ち切りたい。
僕は冷静に京阪ジャガーズ内野陣の守備体形を見渡した。
セーフティバントを警戒しているのか、サードがやや前に出てきており、ショートは三遊間の真ん中にいる。
セカンド、ファーストは少しだけ右寄りに守っている。
それほど大胆な守備シフトでは無いが、二遊間は少しだけ開いている。
ここはセンター返しも面白いかもしれない。
初球。
僕はバッティングの構えから、バットを横にして、サッと引いた。
投球は外角へのツーシームであり、判定はボール。
サードの天野選手がダッシュしてきた所を見ると、やはりセーフティバントにかなり警戒している。
2球目。
外角ギリギリに決まるチェンジアップ。
内角球をイメージしていたこともあり、見逃した。
判定はストライク。
これでワンボール、ワンストライクとなった。
そして3球目。
予想通り、内角へのツーシーム。
僕は思い切り引っ張った。
打球はレフト線に飛んでいる。
だがわずかにファールゾーンの外側。
ファール。
これでワンボール、ツーストライクと追い込まれた。
そして4球目。
外角へのスライダー。
バットが出かかったが、何とか止めた。
判定はボール。
5球目。
内角へのストレート。
ファールで逃げた。
しかし凄い球だ。
まだ手が痺れている。
僕は一度バッターボックスを外した。
カウントは引き続き、ツーボール、ツーストライク。
僕は一度素振りをし、次に来る球種を考えた。
速い球か遅い球か。
どっちかにヤマを張らないと、どっちつかずになる。
僕は覚悟を決めた。
そして6球目。
内角低めへのストレート。
僕は思い切り引っ張った。
読み通り。
打球はレフト線沿いに飛んでおり、サードの天野選手の頭を越えている。
よし、長打コースだ。
僕は一塁に向かって走り出した。
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