第520話 一度あることは…

 大事な首位攻防戦、第一試合目。

 まだシーズンは序盤であり、シーズンの行方を左右する試合、とまでは言えないが、戦力的にも京阪ジャガーズは優勝争いの大きなライバルになるだろう。

 

 そんな事を考えながら、僕は1回裏の打席に向かった。

 さっきのエラーは、湯川選手の自称ファインプレーにより、失点にならなかった。

 今日はツイてるかも。

 そんな事を思いながら、僕は打席に向かった。


 京阪ジャガーズの先発は、来日3年目のピーター投手。

 大リーグで48勝を挙げた右腕であり、日本でも2年連続で二桁勝利を達成している。

 年棒も三億円以上と推定されており、大リーグ入りを狙う僕にとっては、力試しになる。


 大リーグではピッチャーの投球の約40%がフォーシーム(いわゆるストレート)、そして約20%がツーシームということだ。

 つまり約6割が速球系であり、言い換えると速い球への対応力を上げる必要がある。


 マウンドのピーター投手もフォーシーム、ツーシームが投球の軸であり、その他にスライダー、チェンジアップも使ってくる。


 初球。

 スライダー。

 真ん中から鋭く曲がり、ホームベースの端を掠めてくる。

 速い球に的を絞っていたので、見逃した。

 判定はストライク。


 2球目。

 次こそ速い球かと思いきや、チェンジアップ。

 これも外角ギリギリに決まった。

 小癪な…。


 3球目。

 内角へのストレート。

 一瞬、ヒヤッとしたが球審の手は上がらず。

 これでカウントワンボール、ツーストライク。


 4球目。

 外角へのツーシーム。

 何とかバットに当てた。

 ファール。


 5球目。

 内角低めへのストレート。

 これは見極めた。

 カウントはツーボール、ツーストライクの平行カウント。


 そして6球目。

 外角高めへのツーシームを完璧に捉えた。

 打球は鋭いライナーで、ライトへ飛んでいる。

 こういう打球はドライブ回転がかかっており、捕球するのが難しい。


 京阪ジャガーズのライトは、育成出身で俊足強肩の向田選手。

 地面スレスレでキャッチした…。

 またお前か…。

 前回(第512話)に引き続いて、僕のヒット性の当りをキャッチしやがった。

 

 もし僕がヒット1本か2本の差で、首位打者を逃したら、末代まで呪ってやるからな。

 そう思いながら、スゴスゴとベンチに戻った。


 この回の札幌ホワイトベアーズの攻撃は三者凡退に終わり、2回表も鈴鳴投手は無失点で切り抜けた。


 そして試合は0対0のまま、4回表を迎えた。

 鈴鳴投手はここまで3安打を打たれながらも要所を締め、無失点に抑えている。

 今日こそ、サインを渡せるかも。

 そんな事を考えながら、僕はショートの守備位置についた。


 この回は4番の下條選手からの打順だ。

 下條選手はオールスターで4番で出場したことがあるなど、リーグを代表するスラッガーである。


 そしてその強打者の下條選手が、思い切り引っ張った打球が三遊間にライナーで飛んできた。

 僕は必死に横っ飛びし、捕球を試みた。


 だが無情にも打球はグラブの先に当たり、ファールゾーンを転々としている。

 打った下條選手は一塁を回って二塁に到達した。


 僕は咄嗟にバックスクリーン横の大型ビジョンを見た。

 エラーの赤ランプが灯っている。

 今日2つ目のエラーだ。

 僕は思わず天を仰いだ。


 もし飛びつかなければ、レフトへのシングルヒットで済んだかもしれない。

 結果的にだが、夢中で取りに行ったことによって、ランナーを二塁に進めてしまった。


 僕はまた右掌を縦にして、鈴鳴投手に詫びた。

 鈴鳴投手は、「今のは仕方ないっすよ。ドンマイドンマイ」とでも言うかのように右手を上げて応えた。


 しかし今日だけで2つのエラーか…。

 まるで天中殺のような日だな。

 僕は守備位置に戻りながら、そう思った。


 一度あることは二度ある。

 そして二度あることは…。

 いやいやそれは考えまい。

 今は結果を恐れず、萎縮せず、精一杯やるだけだ。

 

 

 

 

 

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