第77話 アピールタイム
紅白戦、予告通り僕は白組の7番セカンドでのスタメンであった。
紅組のセカンドはショートからコンバートされた泉選手。
瀬谷選手も紅組の控えにいるところを見ると、紅組が一軍候補ということかもしれない。
紅組の先発は、エース児島投手。
速球とスプリットのコンビネーションが主体の選手だ。
紅白戦は白組が先行で始まった。
1回の表は三者凡退に終わり、僕には打席が回ってこなかった。
白組の先発は、昨秋のドラフト1位、期待の大卒1年目の新人、三ツ沢投手。1回の裏、紅組の先頭バッターのの岸選手がいきなりホームランを放った。
そして2番の額賀選手がツーベースヒット、3番の水谷選手もレフト前ヒットで続き、いきなりノーアウト一、三塁のピンチだ。
そして4番は主砲の岡村選手。
昨シーズンは37本のホームランを打った。
しかしながら、まだ調整中なのだろう。
当たりそこないの打球が僕の所に飛んできた。
イージーゴロではあるが、こういう打球をしっかりとさばけないと、レギュラーは取れない。
僕はしっかりとキャッチし、ホームを見たが、間に合わないと判断し、セカンドのベースカバーに入った、ショートの並木選手に正確にトスした。
並木選手はファーストに転送して、ダブルプレーを取った。
華麗なファインプレーは、プロ野球の華ではあるが、当たり前の事を当たり前に出来てこその、派手なプレーである。
送球の間に、三塁ランナーの額賀選手はホームインしたが、この場面ではやむを得ない。
2階の表、先頭の4番、山手選手がヒットで出た。
後続の5番、6番は凡退したが、僕に打席が回ってきた。
山手選手は前の打者のボテボテのファーストゴロの間にセカンドへ進んでいる。
ツーアウト二塁の場面だ。
ベンチのサインはもちろん、「打て」。
児島投手は右投げなので、右対右の対決である。
僕はスプリットに的を絞った。
初球は内角へのスライダー。
低いと思ったが、判定はストライク。
2球目は外角高目へのストレート。
遠く見えたので見逃したが、これも判定はストライク。
ノーボール、ツーストライク。
簡単に追い込まれた。
まずい。
見逃しの三振だけは避けなくてはならない。
もちろん、空振りの三振もダメだ。
3球目は外角に大きく外れるカーブ。
さすがにこれは見極めた。
これでワンボールツーストライク。
勝負の4球目。
直球に見えたが、スプリットのようだ。
低いように見える。
だが今日の審判は低目を取っている。
僕はファールで逃げた。
カウントはワンボール、ツーストライクのまま。
5球目、外角低目への直球。
正直、手が出なかった。
だが判定はボール。助かった。
そして6球目、空振りの三振狙いか、真ん中付近への直球、いやスプリットだ。
狙い球が来た。
僕はバットを振った。
真芯に当たった感触があった。
打球はレフト方向に上がった。
レフトの山形選手が厳命に追っている。
抜けてくれ。
僕は祈りながら、走った。
だがフェンスを背にこちらを向いた。
レフトフライか。
そう思った瞬間、外野の芝生でボールが跳ねるのが見えた。
嘘だろう?
僕は二塁の手前で呆然と審判が手を回すのを見ていた。
白組のベンチが沸いている。
まさかの同点ツーランホームランだ。
僕は嬉しさを押し殺しながら、三塁を回ってホームインした。
この時期は投手はまだ調整途中であり、児島投手のスプリットも甘く入ったのは確かだ。
しかしながら、以前の僕ならレフトフライだっただろう。
そう考えると、自分自身の成長を感じる。
「ナイスバッティング」
二軍の鶴見バッティングコーチが声をかけてくれた。
「しかしあんなに伸びるとはな」
「はい、自分自身が一番、驚いています」
「ただ、2球で簡単に追い込まれたのは課題だな。
ボール球に見えたのか」
「はい。特に2球目は完全に遠いと思いました」
「ベンチで見てたら、入っているように見えたぞ。
5球目も審判によってはストライクを取るかもしれないボールだった。
ああいう球をカットできるようにならないとな。」
確かにそうだ。
この時期は結果良ければ良いというものではない。
今回はたまたま良い結果が出たが、この打席だけでも幾つか課題が見つかった。
僕は改めて気を引き締める必要があると感じた。
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