第76話 いよいよキャンプイン
いよいよ1月末となり、キャンプ地である沖縄に向かった。
泉州ブラックスのキャンプは最初は一軍と二軍合同で行い、紅白戦をやる時期になると、一軍と二軍に別れる。
これは新入団の僕にとってはありがたい。
とういうのも、首脳陣、チームメート全員に挨拶ができるからだ。
キャンプの最初にドラフトで指名された選手、トレード入団、新外国人、そして人的補償の僕の順番で、挨拶をした。
自主トレを通して、何人かの選手とは話せる間柄にはなったが、まだアウェー感を感じる。
早くチームに溶け込みたい。
最初はバッテリー班、野手班に分かれて、基礎練習を中心に行う。
この辺は静岡オーシャンズと同様だ。
僕は自主トレで下半身を中心に鍛えたし、日本に戻ってからもずっと体を動かしていたので、自分で言うのも何だが、キャンプ初日から軽快に動けたと思う。
僕のような新入団選手は、最初のアピールが重要なのだ。
何としても一軍のキャンプに残りたい。
キャンプ序盤は順調に終わり、チームの雰囲気も分かってきた。
静岡オーシャンズはコーチの指示に従っての練習が多かったが、泉州ブラックスは驚くほど自主性を重んじられた。
つまり、あまり細かいことを指摘されないのだ。
だから伝統的に強打のチームなんだろう。
その反面、小技や機動力を使うのが苦手なのも、そういうチームカラーによるのだろう。
とは言え、泉州ブラックスにも主にセンターを守る岸選手や、ショートの額賀選手のように俊足で、小技を使える選手もいる。
だが岸選手は球界でも随一の俊足だが、毎年盗塁数は20個前後とそれほど多くは無い。
トップバッターであるが、ホームランも毎年10本前後を打っており、先頭打者ホームランも多い。
反面、打球を打ち上げてしまう傾向も強いので、内野安打も少なく、打率は大体.270前後だ。
額賀選手はさすがに二番打者とあって、送りバントも時々やるが、それでもヒットエンドランの作戦も多く、打率は.260いけば良い方である。
僕は正直なところ、チームカラーの違いに戸惑っている。
首脳陣からどのようなプレーを求められているのか、良く分からないのだ。
泉州ブラックス打線は、集中打を得意としていて、例え劣勢でも打ち始めると止まらない。
かって、飯島投手が最後に先発した試合でも、黒沢選手が三塁でアウトになっていなければ、何点入ったかわからなかった。
繋ぐバッティングをすべきか、それともある程度長打力を付けるべきか、それによって練習方法も変わってくるだろう。
セカンドのライバルはそれほど多くはない。
昨シーズン、黒沢さん以外にセカンドで出場機会が多かったのは高卒10年目を迎えた瀬谷選手だが、それでも先発出場は7試合で、途中出場を含めても29試合だった。
瀬谷選手は、ショート、サードでも出場したユーティリティプレーヤーであり、トータルでは90試合に出場し、打率.245、ホームラン3本と守備型の選手である。
足は遅くは無いが、プロでは平均並みである。
次いでセカンドで出場機会が多かったのは、本職がショートで、大卒5年目の泉選手であるが、途中出場のみで19試合である。
ショート、サードも合わせて昨シーズンは78試合に出場し、打率.267、ホームラン7本だった。
今季はセカンドへのコンバートが決まっている。
後は自主トレで一緒だった大卒2年目の大岡選手、高卒2年目の石川選手がセカンド争いのライバルである。
下半身を重点的に鍛えたからだろうか。
キャンプ序盤の打撃練習から、僕は手応えを感じた。
打球の伸びが昨年までと違う感じがするのだ。
プロ入り以来、パワーをつけるために、食事にも気を使ってきたので、高校時代に比べて体重も10㎏増えた。
そういうのも打球の質の変化に影響しているのかもしれない。
「調子よさそうだな」
バッティングピッチャーを相手に、バッティング練習を行い、バッティングゲージを出た時、釜谷一軍打撃コーチが声をかけてきた。
「明後日の紅白戦、白組のセカンドでスタメンだからな。頑張れよ。」
「え、本当ですか。精一杯頑張ります。」
紅白戦は紅組がレギュラー組、白組が控え組だが、それでも最初からスタメンというのはありがたい。
絶好のアピールチャンスだ。
僕は改めて両手の拳を握り、気合を入れた。
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