第253話 ヒーローインタビューⅦ

 「放送席、放送席。

 今日は投打のヒーローである、児島投手と高橋隆介選手に来て頂きました」

 ワー、パチパチパチ。

 大きな歓声だ。

 やはりホームでのヒーローインタビューは良いものだ。

 僕と児島投手はインタビュアーの待つ、お立ち台に上がった。

 

「最初に投のヒーローである児島投手にお伺いします。

 ナイスピッチングでした」

「はい、あまり調子は良くなかったですが、バックの守りにも助けられて、何とかチームの勝利に貢献することができました」

「3回表、1点を失って、更にノーアウト満塁の場面。

 どんな事を考えていましたか?」

「はい、セカンド以外に打たせれば何とかなると思っていました」

 ん?、どういう意味でしょうか。

 

「小田選手を三振、続く長島選手をピッチャーゴロに打ち取ってのダブルプレー。

 見事に切り抜けましたね」

「はい、開き直って投げたのが良い結果に繋がりました」

 

「そして4回表もワンアウト二、三塁のピンチ。

 あの場面はどんな事を考えていたのでしょうか」

「はい、やはり開き直って投げました」

「鋭いライナーでしたが、セカンドの高橋選手が素晴らしいところに守っていましたね」

「はい、打たれた瞬間は完全にヒットだと思いましたが、高橋が偶然そこにいたのはラッキーでした」

 一応僕なりに考えて守っていたのですが…。 

「今日、攻守に大活躍の高橋選手に何か伝えたいことはありますか?」

「えーと、これまで足を引っ張られることが多かったので、たまには恩返しをしてもらえて嬉しいです」

 ヒドイ…。

 球場内を笑いが包んでいる。


「次に打のヒーローである、高橋隆介選手にお伺いします。

 ナイスバッティングでした」

 一体どのことを言っているのだろうか?

 犠牲フライかスリーベースヒットか?

「えーと、どっちの事でしょうか?」

 

「ああ、そうですね。まずは犠牲フライの方からお伺いしまょうか。

 打った球はどんな球だったでしょうか」

「えーと。忘れました」

 僕は正直に答えた。

 時間が無かったので、第248話を読み返すことができなかった。

 球場内を再び笑いが包んだ。

 

「真ん中高目へのストレートだったと思いますが…」

「そう言われればそうかもしれません」

「あの場面、どんな事を考えていましたか?」

「えーと、デュラン選手はあまり足が速くないので、内野ゴロは打たないようにと思っていました」

「打った瞬間はどう思いましたか?」

「はい、スタンドに入ってくれと思いました」

「入りませんでしたね」

「はい、バットの先でした」

「やや差し込まれたんですかね」

「はい、打ち損じました」

 これはヒーローインタビューでは無かったか?

 

「そして追加点となる、スリーベースヒット。

 当たりはあまり良くなかったですが、とてもラッキーでしたね」

「はい、一塁ベースに当たって良い具合に跳ねてくれました」

「打った瞬間はどう思いましたか?」

「ファールかと思いました」

「どんな事を考えながら、三塁まで走ったのですか?」

「はい、日頃の行いが良いと当たりが悪くても、野球の神様がヒットにしてくれるんだな、と思いました」

「何か良い行いをしているんですか?」

「はい、最近は外出時のゴミは、持ち帰ってちゃんとゴミ箱に捨てるようにしていますし、信号も守るように心がけています」

「それまではどうしていたんですか。

 答えを聞くのが怖いので次の質問に行きます。

 あの回、ツーアウトランナー一、三塁の場面で山形選手が挟まれている間にうまくホームを陥れました。

 あのプレーはサインですか?」

「はい、最初ベンチのサインを見た時は目を疑いましたが、思い切ってスタートを切りました」

「サインが出ると思っていましたか?」

「はい、相手が左ピッチャーなので、あり得るとは思っていました」

 

 今日は守備でもチームを救う良いプレーがありましたね」

「はい、これも日頃の行いの成果です」

「それでは最後にファンの皆様に、児島投手、高橋隆介選手、一言ずつ、お願いします」

 回答をスルーされた。

 

「はい、今日は球場に来てくれてありがとうございます。

 明日も中京パールスとの試合がありますので、差を縮められるように頑張ります」と児島投手。

 次に再び僕にマイクを向けられた。

「はい、明日もホームランを打てるように頑張ります」

「明日は、の間違いですね。

 何はともあれ、今日のヒーロは児島投手と高橋隆介選手でした」

 何がともあれなのかは良くわからないが、大歓声を受けながら、お立ち台を降りた。

 それから児島投手とブルペンカーで球場を一周し、ファンの歓声に答えた。

 やはりホームでのヒーローインタビューは格別だ。

 またできるように頑張ろう。

 

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