第252話 緊迫の最終回

 平塚投手は小田選手に対し、スリーボールノーストライクとしてしまった。

 3球とも際どいところをついたが、いずれもボールと判定された。

 そして4球目。

 外角低めへの投球はわずかに外れ、ストレートのフォアボールを与えてしまった。

 これでツーアウト満塁。

 バッターは3番の長島選手。

 緊迫した場面が続く。


 平塚投手は長島選手に対してもストライクが入らない。

 またしてもスリーボールとしてしまった。

 これで7球連続のボールである。

 僕ら内野陣はマウンドに集まった。

 

「大ピンチだな」

 平塚投手は他人事のように言った。

「次はど真ん中に投げさせるから、守備頼んだぞ」と高台捕手。

「任せとけ」とサードの水谷選手。

「今日、ショート暇だから、こっちに打たせてくれ」と額賀選手。

「セカンドも頼んだぞ」と高台捕手。

「もちのろんです」僕は答えた。

「のが余計だ」と岡村選手。

 軽く笑いが漏れた。

「というわけでしくよろ!!」と平塚投手が締めた。

 そして輪が解け、僕らは守備位置に戻った。


 僕はセカンドの守備位置から改めて球場を見渡した。

 今日も多くの泉州ブラックスファンの方が球場に来てくれている。

 こんな中でプレーできること。

 改めて幸せだと思う。

 何とかあと一人抑えて、勝利を一緒に祝いたい。


 平塚投手は長島選手に対し、本当にど真ん中に投げた。

 長島選手はさすがにスリーボールノーストライクから打つのは躊躇したのか見送った。

 これでスリーボール、ワンストライク。


 そして5球目。

 内角高目へのストレート。

 見送ればボール球かもしれないが、長島選手はファールとした。

 これでフルカウント。

 

 そして6球目。

 平塚投手は渾身の火の玉ストレートを低めに投げ込んだ。

 そうこの球こそが平塚投手の代名詞であり、抑えの切り札である所以である。

 長島選手のバットは空を切った。

 

 最後は渾身の真っ直ぐ。

 フルカウントからこのコースに思い切って投げられるというのは、凄いことだと思う。

 一歩間違えれば長打を浴びるかもしれないし、フォアボールで押し出しとなる恐れもある。

 球速は148km/hだったが、恐らくバッターボックスの長島選手にとっては、もっと速く感じたに違いない。


 ゲームセット。

 勝利のハイタッチの後、僕は勝利の余韻を感じながら、道具をしまい、ロッカールームに引き上げた。

 そしてトイレに行った。


 戻ってきたら、何か騒がしい。なんだろう。

 「おい、あのバカはどこ行った?」

「ああ、あのバカならさっきまで口笛吹きながら、フラフラと廊下を歩いていましたけど」

 広報の梅林さんと高台捕手が何か話している。

 

「どしたんすか?」

 僕は声をかけた。

「おう、いたいた。バカハシ、探していたんだぞ。どこ行ってたんだ」

「どこって、トイレに行っていましたけど。さっきから腹具合が悪くて」

「バカ野郎。お前、今日ヒーローインタビューって言っただろう」

「え?、聞いていませんけど」

「いいから行け」

 僕は首を傾げながら、ベンチに戻った。

 僕は今日、ヒーローインタビューを受けるような事をしただろうか?

 

「さあ今日のヒーローをお呼びします。

 まず投のヒーローは粘りの投球で6回を3失点で凌ぎ、今季8勝目を挙げた、児島投手です」

 児島投手がグラウンドに飛び出していった。

 ワー、パチパチパチ。

 ホームでの勝利とあって、多くのファンの方が残ってくれている。

 

「次に打のヒーローをお呼びします。

 打っては2打点、守っては攻守連発の高橋隆介選手です」


 僕は良くわからないまま、グラウンドに飛び出していった。

 ワー、パチパチパチ。

 久しぶりのホームでのヒーローインタビューだ。

 今季、ヒーローインタビュー自体は3回目だが、過去2回はいずれもアウェーだったので、これだけの大観衆の前で話すのは久しぶりである。

 いつもどおり平常心で臨まなければ。


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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