第54話 不思議な因縁

 2回の表は東京チャリオッツの四番からの攻撃だったが、北岡投手が三振一つと外野フライ二つに抑えた。

 2回の裏の我が静岡オーシャンズの攻撃も四番からだったが、滝田投手の前に、三者凡退に倒れた。


 3回の表、裏もお互いに三者凡退に終わった。

 北岡投手も相手の滝田投手も素晴らしい立ち上がりと言えるだろう。


 そして4回の表。

 東京チャリオッツの攻撃は、1番の境選手からの攻撃だ。

 1回はいきなりツーベースを打たれている。

 北岡投手は慎重になりすぎたのか、フルカウントからフォアボールを与えてしまった。

 ノーアウトランナー一塁。

 次は因縁の岡谷選手だ。

 ワンボール、ワンストライクからの3球目、またしても快音が響いた。

 鋭いライナーが僕の方へ飛んで来た。

 反射的にジャンプした。

 ボールはまたしてもグラブの先に飛び込んでいた。

 恐らくジャンプするのが少し早くても、遅くても捕れなかっただろう。

 僕は直ぐにグラブからボールを取りだし、ファーストの清水選手に送った。

「アウト」

 またもやダブルプレーだ。

 岡谷選手は、宙を見上げていた。

 それはそうだろう。

 2打席連続で、ヒット性の当たりが最悪のダブルプレーだ。

 敵ながら、ついていないとしか言い様が無い。


 この回も結果的に滝田投手は3人で切り抜けた。

 僕がベンチに戻ると、ベンチは大盛り上がりだった。

 さあ、次は僕からの打順だ。

 今度こそ、何とか出塁したい。


 前の打席は滝田投手のスライダーをうまくバットに乗せたが、岡谷選手の好捕に阻まれた。

 またスライダーにヤマをはるか。

 それともチェンジアップか。

 球種としてはスプリットも持っているらしい。

 ここは追い込まれるまでは、スライダーにヤマを張ることにした。


 初球。

 外角低目へのストレート。

 僕はうまくバットの先で合わせた。

 ライナー性の打球がライト線へ飛んだ。

 今度こそ、落ちてくれ。

 僕は祈りながら一塁へ走った。

 

「ファール」

 打球は惜しくもファールゾーンに落ちた。

 後50㎝内側だったら、プロ初ヒットだったのに…。


 2球目は内角高めへのチェンジアップ。

 僕は仰け反って避けた。

 これでワンボール、ワンストライク。

 

 3球目。

 真ん中低目へのストレート。

 低いと思って見送ったがストライクを宣告された。

 これでワンボール、ツーストライク。

 追い込まれた。

 こうなるとヤマを張っている場合では無い。

 どんな球が来ても反応する必要がある。


 4球目。

 外角低目へのストレート。

 バットを出しかけたが、ボール球と判断して、何とか止めた。

 これでツーボール、ツーストライク。


 勝負の5球目。

 スライダーが真ん中に入ってきた。

 しめた。

 僕はバットを振った。

 右打ちを意識し、うまく腕を畳んで打つことができた。

 良い感触だ。

 打球は右中間に上がった。

 これは落ちたら長打コースだ。

 僕は懸命に一塁に向かって走った。


 ライトの岡谷選手が必死にバックしている。

 そして背走したまま、手を伸ばしグラブを出した。

 今度こそ、抜けてくれ。

 僕は走りながら、横目で打球の行方を追って祈った。

 岡谷選手が外野フェンスに激突した。

 どうだ。

 二塁塁審が岡谷選手の方へ走っていく。

 

「アウト。」

 二塁塁審の右手が上がった。

 超ファインプレーだ。

 マジかよ。

 僕は二塁上で天を仰いだ。

 あの打球がヒットにならないのか。

 何て一軍はレベルが高いのだろう。

 

 外野の大型ビジョンに岡谷選手のプレーがスローモーションで映った。

 後ろを向きながら、手を伸ばし、確かに捕球していた。

 そして捕球した瞬間、フェンスに激突したが、ボールはグラブ内にしっかり収まっていた。


「ナイスバッティング。」

 ベンチに戻ると、恩田打撃コーチや、戸松選手に声をかけられた。

 だが幾ら良いバッティングしても、ヒットにならなければ意味が無い。

 僕はベンチに座ったが、まだ諦めきれない気持ちだった。

 2打席連続ヒットになってもおかしくないバッティングだったと思う。

 ライトが名手、岡谷選手で無ければ。

 嫌でもそう思わずにはいられなかった。

 

「お前、岡谷選手に何か恨みでも買っているんじゃないのか。」

 後ろのベンチに座っていたファーストの清水選手が言った。

 考えてみると、この前の試合も含めて僕は岡谷選手の打球を連続で捕球している。

 本当に恨まれていたりして…。

 まさかね。

 僕は岡谷選手との間に、不思議な因縁を感じずにはいられなかった。

 

 

 


 


 

 

 


 

 

 

 

 


 

 

 

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