第403話 よし、こっちに打って来い

 6回表は鬼頭投手が無失点に抑え、その裏の札幌ホワイトベアーズの攻撃は3番の道岡選手からだったが、松島投手に三者凡退に抑えられた。


 打てそうで打てない。

 良い当たりがことごとく野手の正面をついている。

 つまり松島投手の術中にはまっているのだ。


 7回表は今季もルーカス投手。

 ヒットを1本打たれたものの、無失点に抑えた。


 その裏も松島投手がマウンドに上がった。

 打順は6番の谷口からだったが、この回も無安打に終わった。

 やばくないか?

 ここまでノーヒットだ。

 1点リードしているとは言え、ここまでフォアボールのランナーしか出していない。


 あれ?、もしこのまま勝ったらヒーローインタビューは誰だろう?

 投手は本拠地初勝利のバーリン投手で決まりだろうが、打者は…?


 8回表はベテランの大東投手。

 今年38歳になるが、投球術は健在である。

 この回もワンアウト三塁のピンチを背負ったが、後続を打ち取った。


 そして8回裏の攻撃は9番の大東投手からの打順なので、当然代打である。

 松島投手は8回表の攻撃時に代打を出されていたので、この回からは左の竹並投手がマウンドに上がった。


 対する札幌ホワイトベアーズは代打として、水木選手がバッターボックスに向かった。

 スイッチヒッターなので、右打席に立っている。

 そして初球。

 捉えた打球がレフトに上がった。

 これは行ったか?


 しかしながら打球はやや詰まっていたようで、レフトの平選手のグラブの中に収まった。

 なかなかヒットがでない。


 そしてトップに帰って、湯川選手。

 初球。

 真ん中付近へのカットボールを捉えた。

 打球は良い角度でレフトに上がっている。

 今度こそ行ったか?

 飛距離は充分だ。


 打球はポールの上を通過している。

 だが判定はファール。

 惜しい。

 ほんの数センチの差だったと思う。

 札幌ホワイトベアーズベンチのリクエストによる、リプレイ検証が行われたが、判定は変わらず。

 うーん。

 ついていない。


 結局、湯川選手は2球目のチェンジアップを引っ掛けて、ショートゴロ。

 三球でツーアウトになった。


 このまま僕も簡単に終わると、流れが悪い。

 ここは雰囲気を変えたいところだ。


 僕は2球で簡単に追い込まれたが、そこからファールで粘り、フルカウントまで持ち込んだ。

 たが結局、9球目のカットボールに手が出てしまい、サードゴロに倒れた。


 だが大丈夫。

 札幌ホワイトベアーズの抑えには、新藤投手が控えている。

 新藤投手の武器は、ストレートの力強さとか、落差の大きいフォークとかももちろんあるが、何と言っても鋼のメンタルである。


 ピンチを背負おうが、5人連続でフォアボールを出して、逆転サヨナラ負けしようが、僕を含む後輩5人がたらふく高級焼肉を食べようが、いつも泰然自若としている。

(レジの前では少し涙目になっていたが…)


 そうでなければ抑えなど務まらないだろう。

 いくら新藤劇場と揶揄されても、ここ数年札幌ホワイトベアーズの抑えは新藤投手が君臨している。


 この試合もヒット3本でノーアウト満塁のピンチを背負った。

 これでこの試合、仙台ブルーリーブスのヒット数は、12本となり、札幌ホワイトベアーズの0本を大きく上回っている。

 だが点差は1対0で札幌ホワイトベアーズのリード。

 なんて試合だ。


 バッターボックスは3番のメンディ選手。

 そして次のバッターは、4番のリーグ屈指の強打者、深町選手だ。

 僕ら内野陣は、マウンドに集まった。


「まいったな。大ピンチだな、こりゃ」

 新藤投手はまるで他人事のように淡々と言った。

「まあ、これだけヒット数に差があるのに、うちが勝っているのっておかしいよな」と道岡選手。


「そうですね。

 ここは1点は仕方ないです。打たせていきましょう」と僕は行った。

「嫌だ。俺はこれ以上、防御率を悪くしたくない」

 新藤投手はここまで4セーブ(1敗)を挙げているが、防御率は7.20である。

 これ以上悪化すると、確かに抑えとしては厳しいだろう。

 

「ということで、この回は0点に抑えるから、守りよろしく!!」

「了解です」

「OK牧場」

「へい、わかりした」

 口々に返事して、僕らは守備位置に散った。

 よし、こっちに打って来い。

 虎の子の1点。

 守りきってやるぜ。



 

 


 


 


   

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