第475話 新藤劇場、開演なるか?

 6回チャンスを掴みながら、点を取れなかった札幌ホワイトベアーズ、それに対し1点をもぎ取った京阪ジャガーズ。

 流れは完全に京阪ジャガーズに傾いている。

 

 7回表、京阪ジャガーズのマウンドには6回に続き、宗投手がマウンドに上がった。

 札幌ホワイトベアーズの攻撃は5番の下山選手からの打順だったが、宗投手の前に三者三振に終わった。

 同点になって、一段とギアが上がったようだ。


 7回裏、札幌ホワイトベアーズのマウンドに上がるのは当然、KLDSの一角、ルーカス投手である。

 そしてルーカス投手も宗投手に負けない。

 8番からの京阪ジャガーズの下位打線を三者三振に切って取った。

 これでまた流れが変わるかもしれない。


 8回表は8番の武田捕手からの打順だ。

 代打も考えられる場面だが、流れを優先したのだろう。

 そのまま、バッターボックスに向かった。


 京阪ジャガーズはこの回はセットアッパーの造田投手に変わった。

 そして武田捕手は三振。

 代打の水木選手はセカンドゴロに倒れ、ツーアウトランナー無しの場面で僕の打順を迎えた。


 ここで三塁打を打てば、サイクルヒット達成である。

 だが世の中そんなに甘くない。

 造田投手の前に三振に倒れてしまった。

 

 仕方がない。

 造田投手は球界を代表するセットアッパーだ。

 その投手の渾身のボールはちょっとやそっとでは打てない。


 そして8回裏はベテランの大東投手。

 京阪ジャガーズは2番からの好打順だったが、コーナーをつく丁寧なピッチングで三者凡退に抑えた。

 しかも全て内野ゴロ。

 得点は両軍譲らず、2対2のまま。

 優勝を決める大一番は、いよいよ9回の攻防を迎えた。


 9回表、京阪ジャガーズのマウンドには、抑えのギャレット投手が上がった。

 この試合は総力戦。

 勝った方が優勝であり、両チーム全ての打てる手を打つ。

 勝てば1位、負けるか引き分けだと2位。

 両チーム、クライマックスシリーズ進出を決めているとは言え、優勝と2位では天と地ほど違う。


 札幌ホワイトベアーズは2番の谷口からの好打順である。

 しかし先頭の谷口は三振に倒れ、道岡選手がライト前ヒットで出塁したものの、ダンカン選手がセカンドゴロとなり、ダブルプレー。

 結局、3人で攻撃が終わってしまった。


 そして試合は大詰め、9回裏を迎えた。

 札幌ホワイトベアーズのマウンドには、新藤投手が上がった。

 時には新藤劇場と揶揄されることもあるが、マウンド度胸では新藤投手の右に出るものはいない。


 150km/h台のストレートは、手元で伸び、球速以上に速く感じるし、フォークの落差も大きい。

 その他にカーブ、スライダーも投げ分け、相手打者にとってはとても厄介なピッチャーだろう。


 この回の先頭バッターは5番の弓田選手。

 もしここでホームランが出ると、京阪ジャガーズの優勝が決まる。

 新藤投手には、ものすごいプレッシャーがかかっているだろう。


 しかしながらそんな素振りを見せないところはさすがだ。

 いつもどおり飄々としている。

 もしかして本当にプレッシャーを感じていないのかもしれない。


 かって一緒に食事に行った時、新藤投手にプレッシャーについて質問したら、真顔でこう言っていた。

「プレッシャー?

 無えよ、そんなもん。

 打たれたら俺を使ったベンチのせいたし、抑えたら俺のお陰だ」


 その時は「このおっさん、本気で言っているのか?」と思ったが、この大場面での立ち振舞いをみていると、やはり本気でそう思っているのだろう。


 今日も期待の新藤劇場(相手チームファンにとって)は開演し、ワンアウト満塁のピンチを背負った。

 ここで迎えるバッターは、9番の投手の打順とあって、京阪ジャガーズは代打に左打者の三木選手を送った。

 このバッターもかっては外野のレギュラーの一角を占めていた選手だ。

 京阪ジャガーズの選手層の厚さには改めて舌を巻く。

 

 そしてその三木選手に対して、新藤投手はスリーボール、ワンストライクとしてしまった。

 もし次の投球がボールなら、その瞬間、押し出しで京阪ジャガーズの優勝が決まる。

 絶対絶命のピンチだ。

 


 

 

 

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