第230話 二死満塁と大飛球

 打順は1番に帰って、伊勢原選手。

 大型新人と呼ばれ、鳴り物入りでプロに入って3年目になる。

 ここは野球エリートの先輩としての貫禄を見せたいところだ。


 ワンボールワンストライクからの3球目を打った。

 打球は鋭いライナーで左中間に飛んでいる。

 そしてレフトとセンターの真ん中に落ちた。

 二塁ランナーは悠々とホームに帰り、一塁ランナーの浜投手は三塁ストップ。

 タイムリーツーベースだ。

 フォークが落ちず、棒球になってしまったようだ。

 これで2対0となり、ノーアウト二塁、三塁。


 この回は、2番の宮前選手の内野ゴロで1点を追加し、3番の岸選手もきっちりと犠牲フライを打ち、4対0。

 更に岡村選手にソロホームランが出たところで、稲城投手は降板となった。


 稲城投手は呆然とした表情でマウンドを降りた。

 2回までは完璧な内容だったが、この回はプロの洗礼を浴びたというところか。

 そしてペースを乱したのは、自分で言うのも何だが、やはり僕の粘りだろう。


 その後、代わった左腕の松島投手の前に5番のデュラン選手が凡退したが、3回表は結局5点を取った。

 3回裏も浜投手は三者凡退に抑え、良い流れのまま4回表を迎えた。


 仙台ブルーリーブスのマウンドは回跨ぎで引き続き松島投手。

 この回の先頭バッターは、6番の水谷選手。

 いきなりライト線にツーベースヒットを放った。

 ノーアウト二塁の場面で、この日2度目の僕の打順を迎えた。


 点差はあるが、送りバントもありうる。

 僕はベンチのサインを見た。

「待て」のサインだった。

 カウントにより、作戦を考えるということか。


 初球、内角に食い込むスクリューボール。

 僕はバントの構えから、バットを引いた。

 見送ってボールワン。

 

 バッターボックスからベンチを見ると、ヒットエンドランのサイン。

 2球目。

 外角へのストレート。

 右方向に流し打ちした。

 打球はうまい具合に一、二塁間を抜けた。

 二塁ランナーの水谷選手は三塁を蹴って、ホームイン。

 タイムリーヒットだ

 これで6対0

 2打席で1打数1安打、フォアボール1、打点1、盗塁1。

 我ながらなかなかの活躍だ。


 この回は続く高台捕手が、ショートゴロを打ち、あえなくダブルプレー。

 続く浜投手も見逃しの三振に倒れた。


 4回裏は浜投手がメンディ選手にソロホームランを浴びた。

 決して甘い球では無かったと思うが、ボール1個分メンディ選手の得意なゾーンに入ってしまったのだろう。

 だが浜投手は踏ん張り、この回はその1点だけに抑えた。

 4回を終えて、6対1。


 5回表も松島投手が続投し、1番からの好打順であったが、無得点に終わった。


 5回裏、引き続き浜投手がマウンドに上がった。

 この回を投げきれば、勝ち投手の権利を得ることができる。

 しかし簡単にツーアウトを取ったあと、ヒットとフォアボールで満塁のピンチを背負ってしまった。

 ここで迎えるバッターは先程ホームランを打ったメンディ選手。

 もし満塁ホームランを打たれたら、1点差に迫られる。


 だが泉州ブラックスには、このような満塁のピンチを背負うのが好きな(?)スペシャリストがいる。

 困った時のニノこと、二宮投手だ。

 勝ち投手の権利目前で浜投手はマウンドを降りた。

 言うまでもなく悔しそうに唇を噛み、項垂れながらベンチに下がっていったが、泉州ブラックスファンからは暖かい拍手を受けた。


 二宮投手はいきなりスリーボールとしてしまった。

 さすが二宮投手。

 追い込まれないと力が出ない、と思っていたら、あえなく押し出しのフォアボールを与えてしまった。

 ダメじゃん。


 そして迎えるバッターは4番の深町選手。

 かっては岡山ハイパーズの主砲として名を馳せたが、昨年フリーエージェントで仙台に移籍した選手だ。

 毎年コンスタントに20〜30本のホームランを打つ、球界を代表する強打者である。


 その強打者に対し、二宮投手はスリーボールワンストライクとしてしまった。

 そして5球目。

 ストレートがど真ん中に行った。

 投げた瞬間、顔を覆ってしまうような絶好球だ。

 快音が響き、打球がセンターに上がった。

 センターの岸選手が懸命にバックしている。

 まさか、満塁ホームランか?


 岸選手はフェンスに張り付き、ジャンプした。

 取ったか?、フェンスに当たったか?

 ツーアウトなのでランナーは打った瞬間、スタートを切っており、ヒットなら3人のランナーがホームに戻ってくるだろう。


「アウト」

 やや間があって、審判が腕を上げた。

 がっかりした声と歓声が入り交じる。

 仙台ブルーリーブスベンチはリプレー検証を要求した。

 それはそうだろう。

 これがヒットかアウトかでは天と地くらいの差がある。

 ダメ元でもチャレンジするだろう。


 オーロラビジョンにリプレー検証の場面が映し出されているが、良くわからない。

 球場のお客さんの反応を見てもどちらかわからない。


 審判団が出てきた。

 そして腕を上げた。

「アウト」

 球場内をため息が包んだ。

 二宮投手はガッツポーズし、岸選手は軽快な足取りで戻ってきた。

 

「ナイスプレー」

 ベンチに戻ってきた岸選手に口々に声をかけた。

 5回を終えて、6対2。

 優位に試合を進めているが、まだまだ油断はできない。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

  

  

 

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