第441話 上手の手から…
今日のスタメンは次のとおり。
1 高橋(ショート)
2 五香(ライト)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 谷口(レフト)
6 岡谷(センター)
7 光村(セカンド)
8 上杉(キャッチャー)
9 バーリン(ピッチャー)
2番でスタメンの五香選手の古巣は岡山ハイパーズである。
五香投手は岡山ハイパーズを戦力外になった後、アメリカの独立リーグを経て、マイナーリーグを経て、大リーグ昇格を果たし、その後札幌ホワイトベアーズに入団した選手だ。
古巣相手に捲土重来を期す、といったところか。
(新しい言葉を覚えたからといって、無理やり使おうとするのはやめて欲しい。作者より)
ちなみに投手としては、昨シーズンに二度、岡山ハイパーズ戦で先発し、7回を2失点で勝ち投手になった(第345〜348話)他、勝ちは付かなかったものの、シーズン終盤でも7回1失点と好投した。(第372〜373話)
今季は投手としては調子を落としているので、今日は打者として、古巣の鼻を明かし、溜飲を下げたいところだ。
(だから無理に難しい言葉を使わないで。作者より)
そして第一話から登場しているにもかかわらず、今いち、キャラが立っていないので、そろそろ目立って欲しい。
岡山ハイパーズ先発は、高卒2年目右腕の岡本投手。
右腕相手に一、二番に右打者を並べるとは、セオリー無視も甚だしいと思わなくもないが、僕の場合は調子と相性を考慮したのだろう。
相手投手が右腕であっても出場できることは喜ばしい。
試合開始前の始球式は、有名なアイドルであった。
打席には僕が立つので、近くで見られる。
やはり顔が小さく、可愛い。
何と言うか直視できないような眩しいオーラを放っている。
いつも始球式の時、特に相手が可愛い女性の時は、ホームランを打って、その笑顔を歪めてみたい。
そんなサディスティックな欲求に駆られるが、彼女のファンに夜討ちをされるリスクを考え、お約束どおりわざと空振りした。
とは言え、可憐な見た目とは裏腹にノーバウンドでバッターボックスに届いたのはなかなか凄いかもしれない。
(ネットニュースの見出しでは、人気アイドルの〇〇、始球式でノーバン投球と出るのでしょうね)
試合が始まり、1回表の打席に立った。
マウンドの岡本投手は、一昨年のドラフト1位で指名された金の卵、略してキ…(言わせねぇよ:作者より)だ。
高卒2年目とあって、まだあどけない顔をしているが、150km/hを越えるエグい球を投げ込んでくる。
前回対戦時は4回途中2失点、ワンアウト満塁の場面で降板しており、僕はタイムリーヒットを含む2安打を放っている。(373話)
僕は速球はあまり得意ではないが、岡本投手の素直なストレートは僕にとっては打ちやすいのだ。
ということで、ツーボール、ワンストライクからの4球目をセンターにジャストミートした。
これは長打コースだと思ったが、センターは名手、水沢選手。
フェンス手前で好捕されてしまった。
一直線で落下点に到達し、腕を伸ばしてのランニングキャッチ。
グラブのほんの先で掴み取った。
抜けていれば完全に長打コースだったのに…。
僕になんの恨みが…。
そして2番の五香選手もセンターにライナー性の素晴らしい当たりを放ったが、またしても水沢選手の好捕(ダイビングキャッチ)に阻まれた。
これこそプロのプレー。
さすがゴールデングラブ賞の常連だ。
そして続くのは最近影の薄い、3番の道岡選手。
毎年、打率3割近くをコンスタントに残すが、今シーズンはシーズン当初から打率.280台とあまり調子が上がっていない。
この打席も岡本投手のスプリットの前に空振り三振に倒れてしまった。
札幌ホワイトベアーズの先発は、今シーズン入団のバーリン投手。
とても話し好きであり、僕にもよく話しかけてくれるが、残念ながら僕は簡単な英語しかわからない。
だからいつも曖昧な笑顔で頷いている。
1回裏、1番の水沢選手の打球は力の無いショートゴロとなった。
僕は懸命に突っ込み、捕球して一塁に送球したが、送球がややライト側に逸れてしまった。
一塁のダンカン選手は懸命に捕球してくれたが、足が一塁ベースから離れてしまった。
記録は僕のエラー。
僕は手のひらを垂直に立て、バーリン投手に詫びた。
「オッケー、気にするな。
上手の手から水がこぼれることもある。
名手、高橋だって極稀にはエラーすることあるさ」
バーリン投手はそう言うかのように、左手を挙げた。
これでノーアウト一塁。
次に打球が飛んできたら、死にものぐるいでプレーしてやる。
僕は気合を入れて、守備姿勢を取った。
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