第179話 古巣との対戦
首位攻防戦を2勝1敗で勝ち越し、泉州ブラックスは首位に0.5ゲーム差にせまっていた。
僕にとってシーズンの大詰めでの優勝争いは初めての経験である。
残り18試合で、東京チャリオッツとの試合はあと3試合。
しかもシーズン最終盤に三連戦が組まれているので、ここが天王山になるように食らいついていきたいところだ。
(栄ヘッドコーチが天目山にならないようにしよう、と言っていた。どういう意味だろうか)
次の新潟コンドルズとの三連戦は2勝1敗で、僕は1試合スタメンで、あとは途中出場した。
合計で6打数2安打。
シーズン終盤にきて、調子が上向きになり、打率が向上してきた。
ここまでシーズン通算で62試合に出場し、92打数25安打、打率.272、ホームラン3本、打点12、盗塁12(盗塁死5)。
首位争いの緊張感は僕にとって良い方向に作用しているように思える。
僕は痩せても枯れても甲子園優勝メンバーだ。
大舞台には強い、と自分では思っている。
そして今季はヒットの約半分の12本が長打(ホームラン3、ツーベース7、スリーベース2)となっており、打球の性質が変わってきたと手応えを感じている。
その次の中京パールスとの2連戦は1勝1敗の痛み分け。
東京チャリオッツとの差は1.5ゲームに開いた。
そして移動日を経て、迎えるのはアウェーでの古巣静岡オーシャンズ3連戦。
静岡オーシャンズは5位の新潟コンドルズにも5ゲーム離された最下位に低迷していた。
今季の静岡オーシャンズは、杉澤投手が3試合に登板しただけで、ケガで離脱するなど、投手陣の不調が響いている。
(杉澤投手はひじの手術を受け、今期絶望である)
打線も黒沢選手が打率3割を切っているなど、投手陣の不調を打線が穴埋めをすることができていないことも、低迷の一因である。
僕にとって、静岡オーシャンズは今も特別な存在である。
縁あって泉州ブラックスにお世話になっているが、もともと僕のプロ入りへの道を開いてくれたのは、静岡オーシャンズである。
以前、僕の担当だった吉田スカウトに聞いたところでは、ドラフト当日、僕を指名するか意見が割れたらしい。
それを鶴の一声で決めてくれたのは、当時の田中大二郎監督だったそうだ。
将来、チームの要になる可能性を秘めていると言ってくれていたそうだ。
しかし田中大二郎監督は成績不振で、僕の1年目のオフに解任されてしまった。
当時はずっと二軍暮らしだったので、恩を返すことができなかったのは心残りとなっている。
「よお、生きていたか」
試合前の打撃練習を終え、ベンチに帰ろうとすると、原谷さんに声をかけられた。
「お久しぶりです。元気そうですね」
「ああ、俺は元気だが、チームは元気がない」
「谷口はどうしていますか?」
「谷口か……。なかなか、苦しんでいるな」
谷口は昨シーズン終盤にホームランを量産し、今季は開幕から四番で起用された。
序盤は好調だったが、対戦が一回りする頃から、弱点を執拗に攻められ、次第に打てなくなり、やがて二軍落ちした。
二軍では無双の打棒を見せるが、一軍では結果を残せない、ということの繰り返しで、ここまで82試合に出場して、打率.209でホームラン6本の成績だった。
今は二軍にいる。
杉澤さんは故障中であり、川崎ライツにいる竹下さんも、今季は一軍昇格がなく、ドラフト同期で一軍にいるのは原谷さんと僕だけである。
プロ入り6年目を迎え、我がドラフト同期組は厳しい状況に置かれていると言えるだろう。
「隆は最近絶好調みたいだな」
「はい、少しずつ手応えを感じてきました」
「またホームラン打ったんだってな。
パワーがついてきたのか」
「はい、今シーズンは強いあたりを打てるようになってきました」
「まさか、俺よりもホームランを打つとはな。
隆のくせに生意気だぞ」
ジァ○ア○ですか?
ちなみに原谷さんは今シーズンホームランを2本打っている。
「今日はスタメンか?」
「はい、その予定です。原谷さんは?」
「俺は今日もプルペン警備だ」
「そうですか。お互い頑張りましょうね」
原谷さんの自虐を軽く聞き流して、僕はベンチに戻った。
古巣とはいえ、最下位の静岡オーシャンズ相手に取りこぼすと、優勝争いから後退してしまう。
さあ、頑張ろう。
僕はルーティンのストレッチをするためにベンチ裏に下がった。
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