第102話 敵と味方に別れても

「よお、スポーツニュース見たぜ。

 相変わらず、期待を裏切らないな。

 いつも何かをやってくれる」

 電話の主は三田村だった。

 

「うるせぇ。狙ってやったわけじゃない。足がもつれたんだ」

「まあ狙ってできるもんじゃないよな。

 笑いの神、降臨か」

「降臨するなら、野球の神にして欲しいよ。

 お前は大学はどうだ」

「ああ、可愛い娘もいっぱいいるし、中々楽しんでいるよ。

 この間も合コンに参加したけど、元プロ野球選手という事で、女の子達も興味津々でさ、盛り上がったよ」

 僕は勉強の事を聞いたのだが。

 

 三田村は無事に志望の私立大学に合格した。

 おバカに見えるが、予想外に勉強はできるらしい。

 人は見た目に寄らないものだ。

 

「今度、隆も合コンに参加しないか?

 現役プロ野球選手に会いたいと言っている女の子がいてさ。

どうだ?」

「問題は二つある。

 一つは今は絶賛シーズン中であること、もう一つは参加したらお前、彼女にチクるだろう」

「当たり前だろう。

 火のない所に煙を立てるから、面白いんじゃないか」

 僕はお前を楽しませるために生きているわけではない。

 

「ところで杉澤さん、大丈夫かな」

「ああ、らしく無かったよな。

 ちょっと心配だ」

 静岡オーシャンズの杉澤投手は、開幕戦に先発したが、4回5失点で降板し、しかもマウンドを降りるときに肩をかなり気にしていた。

「まあ、隆も体に気をつけて、また珍プレーを見せてくれ。

 じゃあな」と言って、電話が切れた。

 何度も言うが、やりたくて珍プレーをやっているわけでは無い。


 開幕して、10試合が経過し、僕はスタメン出場は無いものの、代走3試合、ショートの守備での途中出場2試合と丁度半分の5試合に出場していた。

(打席にはまだ立っていない)

 まあまあ、幸先の良いスタートではないだろうか。


 チームは5勝5敗の五分であり、良くも悪くも無いというところか。

 個人成績では、ルーキーの伊勢原選手は6試合にショートのスタメンで出場し、18打数5安打、打率.278、ホームラン0、打点2と及第点の成績を残していた。

 一方、昨年までショートの不動のレギュラーだった、額賀選手は途中出場を含めて、7試合に出場し、16打数ノーヒットと精彩を欠いていた。


 一方セカンドはトーマス・ローリー選手が、開幕から全試合にスタメン出場し、打率.353と好調を維持している。


 翌日はホームに戻っての静岡オーシャンズ戦だ。

 新潟から移動後の前日練習の時、朝比奈監督から声をかけられた。

「明日はスタメンでいくぞ。

 準備しておけ」

「はい、大暴れします」

「いや、普通で良い。

 お前の場合、別の意味で大暴れしそうな気がする」

 どういう意味かよく分からないが、いずれにせよ今季初スタメンだ。

 結果を残して、これをきっかけに出場機会を増やしたい。


 僕は寮に戻ってから、明日の予告先発を確認した。

 先発は、杉澤さんだった。

 杉澤さんは開幕戦の後、一度ローテーションを飛ばして、明日の先発に備えていたようだ。

 相手が杉澤さんというのは、正直言ってやりにくい。

 とは言え、僕は結果を残さないと、次がない立場なので、遠慮はしていられない。


 彼女と母親に連絡したところ、見に来ることになった。

 妹は友達とパンケーキを食べに行く約束があるから、来られないそうだ。

 そうかい、そうかい。

 勝手にせい。


 翌日、僕は2番ショートでのスタメンだった。

 ショートでのスタメンはプロ入り初である。

 なお、泉州ブラックスのスタメンは、以下のとおりである。

 

 1 岸(センター)

 2 高橋隆(ショート)

 3 トーマス(セカンド)

 4 岡村(ファースト)

 5 ブランドン(指名打者)

 6 水谷(サード)

 7 山形(ライト)

 8 高台(捕手)

 9 額賀(レフト)

 先発 綾瀬


 額賀選手は、今日は外野手として出場する。器用な選手だ。

 また、綾瀬投手は大卒プロ2年目の右腕で、プロ初先発だ。


 対する静岡オーシャンズのスタメンは、次のとおりである。

 

 1 新井(ショート)

 2 但馬(センター)

 3 黒沢(セカンド)

 4 ストラート(指名打者)

 5 清水(ファースト)

 6 戸松(サード)

 7 高橋孝(ライト)

 8 原谷(捕手)

 9 谷口(レフト)

 先発 杉澤


 図らずもドラフト同期4人がスタメンで出場する。

 敵味方となっているが、嬉しいことには違いない。

 お互いに結果を残せれば良いが。

 

 

 

 


 

 

 

 


 

 

 

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