第596話 チャンスが欲しい?
翌日、僕は着慣れない一張羅のスーツを着て、愛車のぽるしぇ号で球団事務所に乗り付けた。
一体何の話をされるのだろう。
恐らくポスティングに関連した話だとは思うが…。
僕は緊張した面持ちで、どさんこスタジアムに隣接した球団事務所に入った。
「おはようございます」
「あ、高橋選手。おはようございます」
入口にいた顔なじみの警備員の方に挨拶し、受付に向かった。
「北野本部長とお約束しているのですが…」
受付の女性に声をかけると、その方は端末を操作した。
「はい、承っております。
第2応接室でお待ち下さい」
僕は応接室に入った。
札幌ホワイトベアーズの栄光の瞬間の数々の写真や、過去のスター選手の写真が飾られている。
それらを立ちながら、見ていると、ドアがノックされ、北野本部長とジャックGMが入室してきた。
「どうもお待たせしました。
どうぞ、おかけください」
壁側の席をすすめられ、北野本部長とジャックGMはその向かいに座った。
すると秘書の女性がコーヒーを持ってきてくれた。
「今シーズン、お疲れ様でした。
素晴らしい活躍でしたね」
「はい、我ながら素晴らしい活躍でした」
僕は正直に答えた。
「トウルイオー、オメデトーゴザイマス」
ジャックGMが口を開いた。
「はい、ありがとうございます」
「今日来て頂いたのは、他でもない。
来季について、ざっくばらんにお話をしたいと思ったからです」
早速おいでなすったな。
僕もあまり回りくどい話は好きではないので、単刀直入に本題に入ってもらった方がありがたい。
「実は大平監督の後任ですが、このジャックGMにやって頂くことになりました」
「え?」
ちょっと驚いた。
大平監督の退任は発表されていたが、その後任はまだ発表されていなかった。
「ワタシ、GMトシテ、コンキノセイセキテイメイノセキニンヲカンジテオリマス。
ワタシ、ドウシタラセキニンヲトレルカカンガエタネ」
その後を北野本部長が引き取った。
「実はジャックからは退任の申し出がありました。
そしてオーナーと話し合いました。
責任の取り方は色々とあります。
辞めるのももちろん一つの取り方です。
でもあえて火中の栗を拾う、というのも責任の一つだと思います。だからジャックには監督就任を依頼しました」
「ワタシ、オドロイタネ。
ソシテ、ウレシカッタ。
リベンジノチャンス、モラエタ」
「当チームは端境期にあります。
これまでチームを支えてくれた道岡選手や、下山選手もベテランとなり、ダンカン選手とも来季は契約しない予定です。
かと言って、若手選手が育っているかというと、なかなかそうでもありません」
そこで北野本部長はコーヒーに口をつけた。
「当チームはここ数年、レギュラーメンバーがほぼ固定されており、それが安定した成績に繋がった側面はありますが、一方で若手選手がなかなか育っていない実態があります。
来季は若手選手を積極的に起用したいと考えていますが、正直なところ、厳しい戦いとなると予想しています」
ジャックGMが口を開いた。
「デモ、アナタハ、ワタシノキビシイジョウケンヲクリアシタ。
ダカラアナタガポスティング、キボウシタラミトメマス」
いよいよ本題に入った。
だが何故だろう。
嬉しいとも悲しいとも感情が動かなかった。
「ありがとうございます。
でもポスティングに申請するかは、もう少し考えたいと思います」
僕は正直に答えた。
今は自分でもどうしたいか、わからないのだ。
「そこで高橋選手には、我々にチャンスを頂きたい」
「チャンス…、ですか?」
「はい、チャンスです」
僕が札幌ホワイトベアーズにチャンスを与える?
一体、どういう事だろう?
意味不明。
略してイミフ。
僕は首をかしげた。
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