第339話 野球に判定勝ちは無い
弓田選手がバッターボックスに入った。
見た目は細身であり、身長は180cmくらいだ。
見た目は足が速そうだが、実際には鈍足の部類に入る。
よって内野ゴロを打たせれば、ダブルプレーを取るチャンスは充分にある。
当然ここは低め勝負だ。
須藤投手はストレートの球速は、最速140km/hそこそこだが、その分コントロールには定評がある。
初球。
真ん中高目へのカットボール。
打ち頃のボールだ。
おい、こら。
当然こんな絶好球を弓田選手が見逃すはずはない。
快音を残した打球は、ライナーで僕の方に飛んできた。
必死にジャンプしたが、もちろん届かない。
下手したら長打コースだ。
そう思い、着地してすぐに後ろを振り返った。
すると谷口が横っ飛びしている。
おい、バカ。逸らしたら走者一掃だぞ。
大歓声が球場内を包んだ。
どうなったんだ。
抜けたのか？、それとも落としたか。
谷口はすぐに立ち上がり、セカンドに送球した。
何と打球は地面スレスレで谷口のグラブに収まっていた。
セカンドランナーの浅井選手は飛び出しており、帰塁できずにアウト。
打った弓田選手は一塁ベース上で悔しそうに天を仰いでいる。
須藤投手は派手にガッツポーズした。
結果的にノーアウト満塁の大ピンチを無失点で凌いだことになる。
須藤投手はマウンドを降り、ベンチに戻ってくる谷口を出迎えている。
しかし、結果オーライではあるが、危険なプレーだ。
もし後ろに逸らしていたらどうなっていたか…。
このプレーはあまり子どもたちにはお勧めできない。
良い子は真似しないように。
とは言え、谷口のイチかバチかのギャンブルは成功し、チームの大ピンチを救ったのは確かだ。
まあバカヅキの結果オーライとしといてやるよ。
「誰がバカヅキの結果オーライだ。
俺は勝算があったからこそ、チャレンジしたんだ」
どうやら心の声が漏れていたようだ。
隣に座っていた谷口から苦情を受けた。
わかった。そういう事にしておいてやる。
そんな会話をしていると、すぐに守備の番になった。
２回表は今日は４番に座っている、道岡選手からの打順であったが、この回もわずか６球で三者凡退に終わった。
これで車谷投手は２回を９球で終えたことになる。
札幌ホワイトベアーズとしては、追い込まれたらノーチャンスなので、積極的にファーストストライクを打っていった結果なので仕方がないとも言える。
ヤレヤレ、ベンチで休んでいる暇もないのか。
ドッコイショ。
僕は立ち上がり、グラブを掴み、ショートの守備位置に向かった。
２回裏も須藤投手は、フォアボール２つと送りバントで、ワンアウト二塁、三塁のピンチを背負ったが、何とか後続を抑えた。
今日は攻撃の時間がとても短く、守備の時間が長い。
試合内容は圧倒的に京阪ジャガーズのペースだが、点差は０対０のままである。
３回表。
この回は７番のダンカン選手からの打順だ。
ダンカン選手は開幕からずっと４番であったが、チームトップの８本のホームランを打っているものの、打率が.197とついに２割を切っていた。
ダンカン選手は車谷投手の変化球の前にクルクルと舞い、三球三振に倒れた。
「ガッ◯ム」
ダンカン選手はベンチに戻ってくると、悔しそうに呟いた。
そして後続も凡退し、この回も10球で攻撃を終えた。
車谷投手は３回までで19球しか投げていない。超省エネ投球。
しかし今日はフラストレーションがたまる試合だ…。
３回裏も須藤投手は、ノーアウトから先頭バッターにツーベースヒットを打たれたものの、青息吐息で無失点に抑えた。
これにはツーアウト二塁の場面で、三遊間を抜けるかという強いゴロを最短距離で打球に追いつき、その深いところから一塁にストライク送球し、間一髪アウトにした僕の功績を忘れてはいけない。
ちゃんと見てましたか？、チームの査定担当の方。
こういう数字には現れないプレーもちゃんと評価してくださいね。
３回を終わり、スコアは０対０のまま。
試合内容は京阪ジャガーズが圧倒的に優勢だが、野球には判定勝ちは無い。
まだまだ試合はどう転ぶかわからない。
さあ、４回表は僕に打順が回る。
何とかしたい。
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