第158話 結果が全ての世界
山崎のノーヒットノーランは、テレビニュース、スポーツ新聞のみならず、翌日の一般紙でもかなり大きく報道された。
人気球団の京阪ジャガーズ所属であること、あと1人で完全試合を逃した悲劇性、そしてその打者が高校時代のチームメートの僕。
まあ、話題性はあったのだろう。
京阪ジャガーズとの3連戦は1勝2敗に終わり、僕はどちらの試合も途中出場した。
それぞれ1打席ずつ与えられたが、いずれも無安打に終わった。
そんな時、トーマス・ローリー選手が打撲から復帰することになった。
二軍落ちの不安が頭を掠めたが、結論として杞憂であった。
トーマスが不在の間、二遊間は僕、額賀選手、伊勢原選手の3人で回していた。
額賀選手は外野も守れるし、僕は代走でも使える。
引き続き、この4人で回していくということだ。
もっとも泉州ブラックスの二遊間は人材が豊富であり、僕はうかうかしてられない。
二軍には守備の名手、瀬谷選手、長打力のある泉選手、大岡選手、若手の石川選手もいる。
アピールを続けないと、いつ二軍に落とされても不思議ではない。
トーマス・ローリー選手が復帰後、セカンドはトーマス、ショートは伊勢原選手にほぼ固定され、僕は時々代走や守備固めで途中出場したが、スタメンは無かった。
そのうちに交流戦は終わり、季節は6月、初夏を迎えていた。
交流戦終了後の最初のカードは、アウェーでの静岡オーシャンズ戦。
静岡オーシャンズは、現時点でダントツの最下位に沈んでおり、その戦犯として谷口の名前が上がっていた。
谷口は昨シーズン7本のホームランを放ち、今シーズンは開幕からずっと4番を任されていた。
静岡オーシャンズにとって、谷口は待望の和製大砲であり、もし谷口が4番に定着できれば、黒沢選手、清水選手と強力な和製クリーンアップトリオを組むことができる。
谷口は開幕当初は好調で、4月は4本のホームランを放ったが、5月は1本に終わっていた。
交流戦の打率は一割台であり、通算打率も二割を切っていた。
試合前練習で球場に入ると、黙々とバッティング練習をしている谷口がいた。
バッティングピッチャーを相手にした、バッティング練習を見ていると、快音を飛ばしていた。
打った球の多くがスタンドまで届いている。
やがて谷口はバッティング練習を終え、タオルで汗を拭いながらベンチに戻ろうとして、僕の存在に気付いて、近づいてきた。
「おう、元気か。
一試合でホームランを2本打ったんだってな」
「まあまぐれだけどな。
もっともその後はほとんど打席に立っていない」
「でも実力無いと、2本も打てないだろ。少しパワーがついたんじゃないのか」
「それならいいけどな。お前はどうだ?」
谷口の顔が少し曇った。
「なかなか結果が出なくて、正直焦っている。
ずっと4番を打たせてもらっているけど、チームの調子も悪いし……。
多分このままでは、近いうちにスタメンから外されるだろうな……。
今日が正念場かもな」
谷口は交流戦前に対戦したときは、結果には繋がらなくても良い当たりは打っていた。
しかしながら最近は、結果を求める過ぎるせいか、明らかにバッティングの調子を崩しているように見えた。
さっきのバッティング練習でも大きい当たりを打つことに意識が行っているように見えた。
谷口は本来は中距離ヒッターで、ヒットの延長がホームランというバッターだと思う。
高校時代のチームメートで熊本ファイアーズにいる平井の打球は、きれいな放物線を描くが、谷口の打球は、ライナーでスタンドに突き刺さるイメージである。
それが結果を欲しがるあまり、大振りになっているように見える。
そしてこの3連戦は泉州ブラックスが3連勝し、谷口は11打数ノーヒット、1フォアボールに終わった。
(僕は1試合は代走、1試合は守備固めで出場したが、打席には立たなかった)
そして3試合目の後、静岡オーシャンズの君津監督の休養が発表された。
ここまで50試合で14勝33敗3引き分けと、勝率が三割を切る状況では致し方ないのかもしれない。
しかし、僕にとっては2年目からの二年間大変お世話になったので、寂しい気持ちが強い。
静岡オーシャンズはあまり補強にお金をかけない球団であり、フリーエージェントでの選手獲得も黒沢選手が久しぶりであった。
そんな中で、今季は杉澤投手を初め、故障者が相次ぎ、またドラフトで獲得した選手も伸び悩む等、薄い選手層での戦いを余儀なくされた。
だが結果が全ての世界である。
やむを得ないのだろう。
そして、市川ヘッドコーチが監督代行として残りのシーズンの指揮を執ることになり、谷口は二軍に降格となった。
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