第360話 気迫の勝利?

 我らのエース対珍名イケメン対決は、互いに譲らず、両軍ともに一人のランナーも出せないまま、4回裏となった。


 4回裏は僕からの打順である。

 ここは僕が塁に出て、リードオフマンとしての役割を果たしたいところだ。


 サードの守備位置を見ると、やはりセーフティーバントを警戒している。


 初球。

 外角のボールゾーンから、ストライクゾーンに入ってくるスライダー。

 あらよっと。

 何度も同じ手は食わない。

 僕は右を意識して、打ち返した。

 球速があまり速くないので、苦手な球ではなかった。


 打球はライト線上に落ちた。

 判定はフェア。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。

 悠々セーフ。

 どんなもんだい。

 2回目のイケメン対決は、僕に軍配が上がった。


 2番は光村選手。

 ここは送りバントだろう。

 だがそんなに難しい球では無いのに、2球連続で失敗した。


 うーん、これは頂けない。

 もし谷口ならどちらかは決めていただろう。


 3球目。

 サインはヒッティングに替わり、光村選手はあっさりと三振に倒れた。


 そして続く道岡選手は良い当たりのライトフライ。

 もし僕が三塁に進んでいたら、余裕でホームインしただろう。


 ダンカン選手の打球はセンターの頭上を襲ったが、国分選手の守備範囲内。

 この回も無得点に終わった。


 5回表、青村投手はワンアウトからセンター前にヒットを打たれたものの、続くバッターをダブルプレーに打ち取り、この回も3人で抑えた。

 さすがエースだ。


 5回裏の札幌ホワイトベアーズの攻撃は5番の下山選手からだったが、三者凡退に終わった。

 次の回は僕に打順が回る。

 三度目のイケメン対決だ。

(しつこいようだが、異論は認めないし、あるはずもない)


 グラウンド整備、熊本ファイアーズのチアガール(チームファイアーズ)のパフォーマンスを挟み、六回表となった。


 この回は8番の上杉捕手からの打順だ。

 上杉捕手は打撃が得意である。

 鍋釜投手のスライダーをレフト前に運んだ。


 続くバッターは9番ピッチャーの青村投手。

 初めから送りバントの構えをしている。

 ここはワンアウト二塁で、上位打線につなぎたいところだろう。


 青村投手は手堅く初球をバンドし、ワンアウト二塁となった。

 さあ僕の打順だ。


 三度目のイケメン対決だ。

 2打数1安打なので、ここまでは僕の勝ちだろう。

 ここでヒットを打てば、僕の完勝となる。


 初球。

 外角低めへのカットボール。

 遠く見えたが、今日の球審はここを取る。

 ストライクワン。

 

 2球目。

 またしても外角低めへのカットボール。

 これは遠い。

 さすがにボール。


 3球目。

 真ん中高目へのストレート。

 僕は思い切り振り切った。


 鋭い打球が三遊間に飛んだ。

 だがサードの伊集院選手は良い位置に守っていた。

 打球はその正面に飛んだ。


 だが伊集院選手は打球を弾いている。

 その間に上杉捕手は三塁に進み、僕は一塁を駆け抜けた。

 記録は…。

 エラーか…、残念。

 これで3打数1安打となった。

 当りが良かったし、サード強襲ヒットにしてくれても、バチは当たらないと思うけど…。

 まあどんな形にせよ、塁に出られただけ良しとしよう。


 これでワンアウト一、三塁と絶好のチャンス。

 バッターは2番の光村選手だ。

 その表情は悲壮感すら感じる。

 今日は打席では良いところが無いので、何とかチャンスをものにしたいところだろう。


 ベンチのサインは、スクイズ?

 マジか。

 これはプレッシャーがかかる。


 僕は一塁ベース上から、サードの伊集院選手の守備位置を見た。

 やや前に来ており、スクイズも頭にあるようだ。


 初球。

 外角低めへのカットボール。

 見送ればボールたろう。

 ああ、これはバントをするには難しい球だ。


 光村選手はバットを横にして必死に飛びついた。

 ボールは一塁線に転がった。

 光村選手はそのまま、倒れている。


 ファーストのエバーランド選手がホームに投げたが、セーフ。

 大隅捕手は一塁に送球し、アウト。

 決して上手いバントでは無かった。

 だが何としても転がしてやろうという、光村選手の気迫が勝ったのだろう。


 光村選手は起き上がり、嬉しそうにベンチに戻り、チームメイトから祝福を受けている。

 これで1点を先制した。


 

 

 


 


 

 

 

 

 

 


 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る