第49話 豪球復活?
川崎ライツ戦。
初球、三田村はストレートから入った。
低目の真ん中の球だが、バッターは見送った。
スコアボードを見ると、スピードガンは147㎞/m。
長身から投げ下ろす、鋭い球だ。
入団当初に見たよりも、速く感じた。
リハビリを経て、パワーアップして戻ってきたようだ。
2球目。
今度はど真ん中のストレート。
バッターは振ったが、完全に振り遅れていた。
スピードガンでは148km/h。
そして3球目。
今度は真ん中高目へのストレート。
打者のバットは空を切った。
151km/h。
三球三振。
最高のスタートだ。
2番打者には、ツーストライクから一球ボール玉(球種はカーブ)を挟み、4球目は外角低目へのストレート。
バッターは手が出なかった。
これで二者連続の三振。
そして3番打者に対しても、三球三振。
最高の立ち上がりとなった。
三田村は軽快にベンチに戻ってきた。
「ナイスピッチング」
声をかけると、「次は隆の番だぞ。頼むぞ。」と三田村が言った。
よし、あれだけ良いピッチングを見せられたんじゃ、燃えないわけにはいかない。
1回の裏、僕はバッターボックスに入った。
川崎ライツの先発は吉中投手。
僕や三田村とドラフト同期で、
杉澤投手の外れ1位として、入団した、高卒3年目の右腕だ。
これまで一軍での勝利は無いが、将来性を高く評価されている期待の選手だ。
初球、真ん中低目へのストレートが来た。
実は僕はこの球にヤマを張っていた。
「待ってました」
僕は思いっきり振り抜いた。
うまくバットの芯で捉えた感触があった。
打球はセンターに良い角度で上がった。
相手のセンターが向こう向きに追っている。
「入ってくれ」
僕は心の中で祈りながら、一塁に向かった。
相手のセンターが外野スタンドに張り付き、ジャンプした。
どうだ。
三塁審判が手を回した。
入った。
ホームランだ。
やったぜ。
二軍とは言え、プロ初ホームランだ。
僕は喜びを噛み締めながら、ダイヤモンドを一周した。
高校時代以来、久し振りの感触だ。
どんなもんだい。
本当に三田村の初先発を祝砲で祝ってやった。
三田村とはベンチに戻って、グータッチした。
そして谷口とはハイタッチした。
次はお前の番だ。頼むぞ、谷口。
そしてワンアウト一塁から谷口が本当にセンターへツーランホームランを打った。
何でこんな奴が未だに二軍にいるんだ。
「次は原谷さんの番ですね」と僕はネクストバッターズサークルに向かうために、バットを取り出した原谷さんに声をかけた。
原谷さんはニャリと笑って、僕の方にグーを作り、親指を立てて下に向けた。
逆です。多分、それ外国なら殴られるやつだと思います。
ツーアウトランナー無しからの原谷さんの打球は、良い角度でセンターに飛んだ。
原谷さんは早くもガッツポーズをして、一塁に向かった。
しかし打球は平凡なセンターフライだった…。
少しバットの先端でしたね。
原谷さんは、一塁を回ったところで、ずっこける仕草をしてからベンチに帰ってきた。
原谷さんらしい。
その後も三田村の投球は凄かった。
球種は直球とカーブしかないが、二回、三回と一人のランナーも許さず、三回終了時点での奪三振数は6を数えていた。
三回の裏は僕が先頭打者だった。
ツーボール、ツーストライクからの5球目を流し打って、ライト前にゴロで運んだ。
よし、これで2打数2安打だ。
そして次の打者の時に、二塁へ盗塁を決めたが、2番、3番打者は凡退した。
ツーアウト二塁で迎えるバッターは谷口である。
谷口はツーボールからの3球目を今度はライトスタンドに運んだ。
2打席連続のホームランだ。
だから何でお前が二軍にいるんたよ。
恐らく打たれた吉中投手もそう思っているだろう。
このように二軍では無双の谷口であるが、一軍の投手からは中々打てない。
それだけ一軍と二軍の投手の球は違うということだろう。
四回、三田村は先頭打者にサードへの内野安打を打たれたが、後続を三振二つと内野ゴロに抑えた。
四回の裏、先頭バッターは原谷さんだ。
ホームランを狙いすぎたのか、三球三振に倒れた。
そして五回の表。
三田村は三者三振で終えた。
五回を投げて、打者16人に対し、奪三振11である。
三田村はこの回でマウンドを降りたが、豪球復活を印象付けた。
努力は必ずしも報われるものではないかもしれない。
でも報われる事もある。
三田村の復活は、改めて僕にそれを教えてくれた。
ちなみに原谷さんは最終打席の4打席目にホームランを打ったが、その時には三田村はアイシングでベンチ裏に下がっていた。
何となく原谷さんらしい。
こうして三田村のプロ初先発試合は、五回を1安打無失点で勝ち投手になり、また我々同期三人全員がホームランを打つという、最高の結果で終わった。
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