第357話 好守の応酬

 駒内選手は少し後ろに下がった。

 そして助走して捕球するなり、ホームに返球してきた。


 なるほどこういうのをレーザビームというのか。

 返球はまっすぐにノーバウンドで、武田捕手のミットに収まった。

 その時には高野選手はまだホーム手前。

 余裕でタッチアウト。

 先程のお返しだ。

 凄いものを見せてもらった。

 これぞプロ、というプレーだ。


 強肩発動の応酬で、1回表裏の攻撃は、両軍ともに無得点に終わった。


 そして試合は淡々と進み、スコアレスのまま、5回を迎えた。

 ちなみに僕の2打席目は三振に倒れた。

 今度は相手チームも、セーフティーバントをかなり警戒しており、いくら僕でも連続で成功するのは至難の業だ。


 5回表は、7番の駒内選手からの打順だ。

 打率2割以下の3人が並んでおり、相手チームにとっては三人で攻撃を終わらせたいところだろう。


 駒内選手は球界屈指の強肩という武器がありながら、なかなか定位置を取れないのは、ひとえにバッティングの確実性が低いことにある。

 凡打の半分以上が三振であり、足もあまり速くないので、内野安打も少なく、打率も低い。

 ツボにハマった時の長打力はあるが、確率が低くあまりあてにならない。

 だからスタメンは少なく、守備固めでの出場が多くなっている。


 そしてこの打席、横田選手のストレート、ツーシーム、チェンジアップを連続で空振りし、あっさりと三球三振となった。


 ランナーが一人出れば、僕に打席が回るが、続く武田捕手も佐竹投手も簡単に凡退し、予想通り三者凡退に終わってしまった。


 5回裏、先頭の高野選手はライト線際に打ち返した。

 打球はフェア−ゾーンに落ちた。

 余裕で二塁打となる打球のコースだ。

 高野選手は当然、一塁を蹴って二塁に向かった。


 駒内選手はようやく打球に追いついた。

 僕はセカンドカバーに入った。

 すると駒内選手からの返球が来た。

 その返球は寸分違わず、僕のグラブに収まり、僕はそのままの姿勢で、滑り込んできた高野選手にタッチした。

「アウト」


 高野選手は呆然としている。

 それはそうだろう。

 誰がどう見ても長打コースだ。

 そしてその返球のコースも、ややライトよりで、セカンドランナーが滑り込んでくるコース上だった。

 まさに刺すにはここしかない。

 そこにドンピシャで投げてきた。


 駒内選手は表情を変えず、手を挙げている。

 まるでこれくらいお安い御用、といった感じだ。


 その後、佐竹投手はツーアウトから3番の与田選手にもセンターオーバーのツーベースヒットを打たれたが、無失点に抑えた。

 もしさっきの高野選手の打球がツーベースヒットになっていたら、点を失っていたかもしれない。

 そう考えると、駒内選手は初回に続き、その肩で失点を防いだことになる。


 6回表は僕からの打順である。

 もちろんセーフティーバントは警戒されており、ここはヒッティングするしかない。


 ツーボール、ツーストライクからの5球目の外角低めへのチェンジアップをうまく拾った。

 打球はセカンドの頭を越え、ライト前に飛んでいる。

 よしヒットだ。


 そう思った瞬間、高野選手が前に突っ込んできて、フィールドに落ちる寸前に掴み取った。

 ぴえん。

 ヒット1本損した。


 僕は未練がましく、ライトの高野選手の方を見ながら、ベンチに帰った。

 僕に何の恨みが…。


 そして次のバッターの谷口は、初球を右打ちした。

 打球はライナーで、ライト線に飛んでいる。

 昔の谷口はバカのひとつ覚えみたいに、引っ張り専門だったが、最近は状況によって右打ちもできるようになってきた。

 お前も成長したな、ウンウン。


 打球はライト線のフェアゾーンで弾…まなかった。

 またしても高野選手がランニングキャッチしていた。

 谷口は宙を仰いでいる。


 ツキがない。

 もっともこれは日頃の行いが悪いからだろう。

 僕が監督賞をもらう度に、告げ口なんかするからだ。

 ザマーミロ。


 ということで、続く道岡選手も凡退し、この回は三者凡退で終わってしまった。

 

 

 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る