第358話 あの名曲を口ずさみながら帰ろう
試合は両軍ともに無得点のまま、早くも8回表を迎えた。
川崎ライツのマウンドは、引き続き横田投手。
札幌ホワイトベアーズ打線は、5回以降、一人のランナーも出せていない。
この回の先頭バッターは、7番の駒内選手である。
今日は好守備を連発しているが、バッティングはからっきしである。
打率もいよいよ1割を切りそうだ。
ここは代打を出しても良い場面だと思うが、そのまま打席に向かうようだ。
この回は下位打線からなので諦めて、1番から始まる次の回に期待ということか。
と思っていた矢先、初球を捉えた。一閃。
物凄いライナーで、打球はあっという間にライトスタンドに飛び込んだ。
これがたまにあるから、駒内選手は侮れない。
均衡が破れ、札幌ホワイトベアーズは1点を先制した。
そして8番の武田捕手もレフト前ヒットで続き、9番の佐竹投手に打席が回った。
ここは当然代打である。
佐竹投手は7回無失点で、勝ち投手の権利を手にして、マウンドを譲ったことになる。
バッターボックスには、今日は控えに回った西野選手が向かった。
送りバント、ヒットエンドラン、セーフティーバント。
何でもできるし、ヒッティングしても俊足なので、ダブルプレーのリスクも低い。
ワンボールからの2球目。
武田捕手はスタートを切った。
投球は外角低めへの難しい球。
だが西野選手はバットに当てた。
打球は一、二塁間の真ん中を抜けていった。
そして武田捕手は三塁に到達した。
ノーアウト一、三塁。
追加点の大チャンスだ。
ここで迎えるバッターは、オールスターでMVPを獲得した、スーパースター見習いの選手。
つまり僕だ。
川崎ライツはマウンドにスミス投手を送り込んだ。
本来勝ちパターンの投手だが、ここは1点もやらないという強い意思表示だろう。
160km/h近くのストレートを投げる右腕であり、僕にとっては分が悪い。
さて、どうするか。
僕は打席に入る前に、ベンチのサインを見た。
サインはヒッティング。
ここは内野ゴロでも1点入る可能性がある。
三塁ランナーの武田捕手の脚力は普通だ。
初球。
高目へのストレート。
振りにいっても空振りか、ポップフライだろう。
バットを出しかけたが、途中で止めた。
ボールワン。
2球目。
外角低めへのツーシーム。
これは遠い。
見送ってツーボール。
3球目。
ストレートかと思いきや、チェンジアップ。
手が出なかった。
ストライク。
これでカウントはツーボール、ワンストライク。
バッティングカウントだ。
4球目。
ど真ん中へのストレート。
いや、ツーシームだ。
バットに当てた打球は、セカンドに転がっている。
セカンドの与田選手が懸命に突っ込み、捕球し、ホームに投げた。
武田選手が滑り込む。
判定は?
「アウト」
あちゃー。
でもこれは与田選手の守備が良かったと言えるだろう。
仕方が無い。
これでワンアウト一、二塁。
バッターは谷口。
頼むぞ、谷口と思う間もなく、初球をあっさりとピッチャーゴロ。
1-6-3と渡ってダブルプレー。
ノーアウト一、三塁の大チャンスが…。
1点をリードしたので、札幌ホワイトベアーズは継投に入る。
8回裏のマウンドには、大東投手が上がり、三者凡退に抑えた。
そして9回表は3番の道岡選手からの打順だったが、これまたあっさりと三者凡退に終わった。
そして9回裏のマウンドには、抑えの新藤投手が上がった。
今日も新藤劇場は開演するか。
ハラハラドキドキした後、ハッピーエンドとなれば良いが、もし逆転されたら…。
オフコースのあの名曲を口ずさみながら、ホテルへ帰ろう。
結果は敢えて言わない…。
でも改めて口ずさむといい歌だ。
「もう、終わりだね。君が小さく見える…」
結局、最後に決めたのは、高野選手だったとだけ付け加えておく。
さあ、切り替えて明日、明日。
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