第477話 大一番の試合に出られる喜びについて

 11回表。

 僕はゆっくりとバッターボックスに向かった。

 京阪ジャガーズのマウンドは予想通りドイル投手。

 160km/hを越える直球を投げ込んでくる、とても厄介な投手だ。


 もしここで三塁打を打てば、サイクルヒット達成だが、ここは頭から除いた。

 僕に求められるのはあくまでも出塁だ。

 僕はバットを握り拳一つ分、短く持った。


 ドイル投手のあのストレートに対抗するには、スイングスピードを速くするしかない。


 初球。外角低目へのストレート。

 見送ったが、ストライク。


 2球目。

 今度は内角高目へのストレート。

 打ちに行ったがファール。

 手が痺れている。

 凄いボールだ。

 ドイル投手もかなり気合が入っているのだろう。


 3球目。

 外角低目へのストレート。

 これは流石に遠い。

 見逃してボール。

 カウントはワンボール、ツーストライクとなった。

 

 そして運命の4球目。

 外角低目へのスプリット。

 完全に手が出なかった。

 一拍置いて、球審の手が上がった。

 見逃しの三振。

 外角、内角、外角と来ていたので、今度は内角にヤマを張っていた。

 完全に裏をかかれた。


 「頼むぞ、谷口」

 すれ違いざまに、声をかけた。

 谷口は無言で頷いた。


 そして初球。

 外角低目へのストレートを谷口は、うまく右方向に打ち返した。

 これこそが、今季、谷口が進歩した部分だ。

 打球はファーストの頭を越え、フェアゾーンで弾み、ファールゾーンに入っている。


 ライトの向田選手は強肩であるが、谷口はセカンドに到達した。

 この大事な場面での貴重なツーベースヒット。

 谷口はセカンドベース上で小さくガッツポーズしている。


 そしてバッターはチームきってのクラッチヒッター、道岡選手。

 札幌ホワイトベアーズとしては大チャンスだ。


 そしてまたしても初球。

 道岡選手はドイル投手のストレートをうまく拾い、レフトにライナーで打ち返した。

 レフトの弓田選手は懸命に前に飛び込んできた。

 一か八かのプレーだ。


 ボールは弓田選手のグラブに収まったが、どうだ?

 ノーバウンドで捕球したかワンバウンドしたか。


 弓田選手はノーバウンドをアピールしている。

 谷口は慌ててセカンドに戻っている。


 三塁塁審はアウトを宣告した。

 札幌ホワイトベアーズベンチは当然リクエスト。

 

 審判団はバックスペースに入り、外野の大型ビジョンに、先程のプレーの映像が様々なな角度から流されている。

 そして球場内を大きな歓声が包んだ。

 ある角度からの映像では、完全に捕球していたのが見えた。

 

 これは弓田選手の超ファインプレーだ。

 恐らく無我夢中であったと思うが、この場面で前に飛び込むのはかなりの勇気が必要だったと思う。


 もし打球を後ろに逸らしていたら、1点が入り、更にランナー三塁となっていたかもしれない。


 そして審判団が出てきて、やはりアウトを告げた。

 リクエストは失敗。

 これでツーアウト二塁。

 だが諦めるのはまだ早い。

 次のバッターは、4番のダンカン選手だ。


 しかしながら、ダンカン選手はドイル投手の気合の入った投球の前に空振りの三振に倒れた。

 これで11回表の攻撃は終了し、残す攻撃のチャンスは、12回表のみとなった。


 札幌ホワイトベアーズは試合開始前時点で、0.5ゲーム差の2位なので、引き分けでは京阪ジャガーズの優勝となる。

 札幌ホワイトベアーズとしては追い込まれた。

 

 最後の攻撃の前に、11回裏の守備だ。

 京阪ジャガーズの攻撃は、5番の弓田選手から。

 そして札幌ホワイトベアーズはマウンドに、本来は先発の稲本投手を送った。

 掛け値なしの総力戦だ。


 そして稲本投手は持てる球種をフル動員し、京阪ジャガーズ打線を三者凡退に抑えた。


 泣いても笑っても残すは延長12回の攻防のみ。

 恐らくこの激戦はプロ野球ファンの間で未来まで語り続けられるだろう。

 僕はそんな試合に出場している喜びを噛み締めながら、ベンチに戻った。

 

 


 

  

 


 

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