9年目 新たなライバル
第386話 契約更改と自主トレ出発
正月三が日が開けると、いよいよ9年目の始まりだ。
あれ?、何か忘れているような…。
あ、年末の契約更改の事を忘れていた。
契約更改は基本的に若い選手から始まり、主力は後の方である。
僕は曲がりなりにも規定打席に到達し、打率はリーグ9位に入った。
自分で言うのも何だが、チームの主力となったと思う。
だから契約更改は12月21日に設定された。
といっても、今回は事前に交渉し、合意しており、当日は判子を押すなど事務的な手続きを行い、記者会見を行うだけだ。
さて来季の年俸はいくらでしょうか?
正解はCMの後で。
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「ドラフト7位で入団しての前日譚。
いまやメジャーリーガーとなった山崎投手の軌跡、そして全国制覇した仲間たちとの出会いを、暗いタッチと陰鬱な文章で、鮮やかに描く「(仮題)ドラフト1位で入団するまで」。
カクヨムにて不定期(気が向いた時)に不絶賛連載中」
……………………………………………………………
ということでCMも明けたので、発表します。
(ていうか、絶賛の対義語は酷評であり、不絶賛という日本語は無いと思う)
今季3,750万円の年俸が、いくらになったでしょうか。
ジャジャーン。
来季年俸は…。
何と。
6,000万円です。
ワー、パチパチパチ。
「いや、予想以上に上がりましたね、中野さん(誰だよ)。
2,250万円のアップですか?
ポルシェに一歩近づきましたね」
「そうですね、アナウンサーの吉貝さん(同じく誰だよ)。
でも来季は湯川選手も入団して、出場機会も減るでしょうし、これが彼にとって年俸のピークになるでしょうね。
後は下がる一方で、やがて戦力外に…」
ブチッ。
僕はスポーツニュースを消した。やかましいわ。
確かに湯川選手の入団は、確かに僕にとって大きい。
もちろんプロで8年生き抜いてきたアドバンテージはあると思う。
だが年齢も彼の方が5歳若く、しかも数十年に1人と言われる逸材だ。
球団もこの金の卵を大事に育てようとするだろう。
来季は勝負だな。
でも負けるもんか。
僕は統一契約書の写しを見ながらそう思った。
さて年明けの自主トレに備えて、荷造りをしようか。
1月4日。
僕は成田空港にいた。
5年前は黒澤選手の招待で、フロリダでの自主トレに参加したが、今回はメンバーとして認められての参加だ。
もちろん谷口も一緒に参加する。
谷口は一昨シーズンは一軍出場がなかったので、昨シーズンは年俸1,650万円まで下がっていたが、プロ入り最高の数字(112試合で打率.243、ホームラン12本、40打点)を残したことで年俸も倍の3,300万円となっていた。
飛行機もビジネスクラスを奮発した。
自主トレに備えて、身体を休めるのも重要である。
だが後ろの方のカップルや中年のおっさんがやかましくて、あまり休めなかった。
カップルの女性の方は、生まれて初めてのビジネスクラスということで、はしゃいでいるようであり、中年のおっさんはしきりに酒を頼んでいる。
ここはカフェや居酒屋では無い。
フロリダの空港に着いた。
英語は全くわからないが、人の流れに着いていくと、出口にたどり着いた。
「タカハシ、タニグチ、トミオカ、アメリカへヨーコソ」
国際線の到着所を出ると、聞き覚えのある声がした。
「おう、トーマス。元気そうで」
谷口がトーマス・ローリーを見つけると、右手を挙げた。
「オー、オヒサシブリデゴザンスネ」
それは何語だ。
トーマス・ローリーは大リーグから、静岡オーシャンズに入団し2年間在籍後、泉州ブラックスに移籍し、そこでも3年間活躍した。
僕とはセカンドのポジション争いのライバルではあったが、大リーグでの実績を鼻にかけない気の良い男であり、僕とは非常に気があった。
静岡オーシャンズ対泉州ブラックス戦が引退試合となり、試合終了後、両チームの選手から胴上げされた。(182話)
ファンからも選手からも愛されるナイスガイだった。
今はマイナーリーグの監督をしているが、僕らがアメリカで自主トレをやると知って、わざわざフロリダまで駆けつけてくれたのだ。
今回の自主トレは、黒澤選手、中本選手、道岡選手、与田選手の前と同じメンバーに加え、静岡オーシャンズの小田島選手、泉州ブラックスの富岡選手、そして僕と谷口の8人だ。
黒澤選手他4人は明日合流予定であり、僕、谷口、富岡選手の3人はトーマスと会うために1日早くアメリカ入りしたというわけだ。
この日は空港近くのホテルに泊まり、トーマスと旧交を温めた。
ちなみにトーマスは自主トレを手伝ってくれることになっている。
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