第47話 明日はある。きっとある。
試合は結局、延長戦に入った。
十一回の表に東京チャリオッツの角選手に勝ち越しのスリーランホームランが出て、我がチームは4対1で敗れた。
僕のプロ初スタメンの成績は、2回打席に立って、送りバントとショートゴロ。
1打数ノーヒット、打点1。
守備機会4でエラーは無し。
派手な活躍は出来なかったが、まあ初スタメンとしては悪くなかったのでは無いだろうか。
翌日、谷口が二軍落ちした。
開幕から一軍に帯同していたが、12試合に出場し、25打数5安打で打率.200でホームラン1本、二塁打1本という数字であった。
出場3試合目にプロ初ホームランを打ったが、あまり調子が上がらず、昨日の試合がある意味、ラストチャンスだったのだろう。
翌日の試合のセカンドのスタメンは、ショートが本職の野田選手だった。
大卒5年目の27歳の選手で、打撃が売りの選手である。
だがショートは大卒2年目の新井選手がガッチリとレギュラーを掴んでおり、昨シーズンの野田選手は35試合の出場に留まっていた。
今シーズンも代打か、大差のついた試合での途中出場が主で、出場機会を増やすためにセカンドにも挑戦したが、スタメン出場は2試合目だった。
そしてこの試合、野田選手は4打数3安打と活躍した。
守備に不安がある選手だが、記録に残るエラーは無かった。
次の試合もスタメンは野田選手で、4打数1安打だったが、決勝のホームランを打った。
この日は飯田選手が守備固めで出場したが、僕は出番が無かった。
そしてその次の試合も野田選手がスタメン出場したが、3打数ノーヒットで、失点に繋がるエラーもあり、途中から飯田選手が出場した。
この日も僕の出場は無かった。
せめて代走でも出場できれば良いが、我がチームには西谷選手と竹下選手という俊足の選手が控えている。
代走で出場するのも容易では無いのだ。
このままではトーマス選手が肉離れから復帰したら、いや、しなくても次に二軍落ちするのは僕だろう。
そして翌日、予想通り市川ヘッドコーチから、二軍落ちを告げられた。
トーマス選手はまだ復帰できないが、替わりに昇格するのは内沢選手ということだ。
内沢選手は最近好調で二軍で3試合連続でホームランを打っていた。
僕は荷物をまとめ、トボトボと二軍に合流した。
また一からやり直しだ。
改めてプロの世界は厳しいと思った。
僕は一軍出場1試合で大きなミスをしなかった。
どうしたら次のチャンスを貰えたのだろうか。
送りバントは成功させたから、あのワンアウト三塁の場面でヒットを打っていたら、次の出場機会を貰えたのだろうか。
その場合はもしかして7回の裏のツーアウト二塁の場面でそのまま打たせてくれたかもしれない。
僕は改めて思い知った。
プロではチャンスは何度も貰えない。
1回でもチャンスを貰えたのは幸運であり、そのチャンスを掴み取った者だけに次の機会があるのだ。
僕は今回の一軍昇格、そして二軍降格でその事に気づいた。
次に一軍昇格した時は、この悔しさをきっと活かしてやる。
二軍に合流して、すぐに検見川監督に挨拶に行った。
ノックをして監督室に入ると、検見川監督は机に座っていたが、立ち上がり僕の正面に来た。
「取り敢えず、プロ初スタメン、初打点おめでとう。
今回はお前に大きなミスがあったということではなく、上が内沢を見たいという事だった。
いいか、決して腐るなよ。
二軍で結果を残した者だけに、チャンスが与えられる。
二軍で必死に頑張っていれば、明日はある。きっとある。」
「はいっ。ありがとうございます。」
僕は大きく礼をした。
そうだ。
今回はチャンスを活かせなかったのは確かだが、僕の二軍降格の理由はきっとそれだけではない。
チーム事情、巡り合わせ。
運に近いものもあるだろう。
僕にできることは、二軍で結果を残し続けることだけだ。
監督室を辞して、廊下を歩いていると、向かいから谷口がやってきた。
「よお。お前も戻ってきたか。」
「ああ。残念ながらな。」
「まあ、また頑張ろうぜ。俺らにはそれしかない。」と谷口はまるで自分に言い聞かせるように言った。
谷口は二軍では無双とも言える活躍をしている。
これ以上、二軍でやることはないようにも思えた。
そんな谷口でさえ、一軍の壁は厚いのだ。
「そうだな。やるしかねぇよな。」
「ああ。また、一緒に一軍でスタメンで出ようぜ。
次はお前が3番で、俺が4番だ。」
「いやいや俺が4番でお前が5番だろう。」
「馬鹿言え、お前は二軍でもホームランをまだ打ってないだろう。
4番はホームラン打者と昔から決まっている。」
「ホームスチールをやる4番打者も面白いんじゃないか。」
「まあ斬新ではあるな。よし、頑張ろうぜ。」
「そうだな。」
谷口のお陰で少し沈んだ心持ちが明るくなってきた。
そうだ。
検見川監督の言うとおりだ。
頑張っていれば、明日はある。きっとある。
僕は谷口の後について、二軍練習場に向かった。
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