第287話 古巣との対戦

 結局、この試合は谷口の活躍もあり、6対3で勝利した。

 僕はフル出場して、4打数2安打、盗塁1。

 谷口は途中でフォアボールで出塁時に代走を出されたが、3打数2安打、ホームラン1、打点3。

 五香投手は、3回パーフェクト。

 3人とも爪痕を残せたのではないだろうか。


 1日置いて、今日は静岡での静岡オーシャンズ戦。

 ちょうど桜の見頃と重なって、球場外は桜で包まれていた。

 バスを降りると、春の穏やかな風を感じ、またフワリと桜の花びらが舞っていた。

 

 傍らにいた谷口に声をかけようと思ったが、普段以上に真剣な顔つきをしているので、やめておいた。

 僕は懐かしいと感じるが、谷口は移籍したばかりであり、心に期するものがあるのだろう。

 気合が入っているのが、見て取れた。

 

「きれいな球場だな」

 五香選手が感嘆の声を出した。

「そうだろう」と僕は答えた。

 スカイブルーで統一した球場は、春の空、そして薄紅色の桜の風景と見事に調和していた。

 この球場では、僕はあまり活躍できなかったが、プロに入った時はこの球場で躍動するのを夢見ていた。

 

 チームを離れ4年以上経ち、敵チームとなったが、それでも僕が打席に立つと静岡オーシャンズファンの歓声も耳にする。

 これは本当に嬉しいものだ。


 さて、今日のスタメンは以下のとおり。


 1 高橋(ショート)

 2 五香(ライト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(指名打者)

 5 谷口(レフト)

 6 西野(センター)

 7 北田(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 木村(ファースト)

 ピッチャー 大道寺


 先発の大道寺投手は、昨秋のドラフトで2位指名された、大卒のルーキー左腕だ。

 ここまでオープン戦は、3試合に登板して、6回を自責点1に抑えている。

 開幕に向けての最終テストの意味合いが強いのだろう。


 静岡オーシャンズの先発は、本宮投手。

 僕が退団してから、入団した投手であり、面識はない。


 なおキャッチャーは原谷さんだ。

 試合前に谷口と一緒に挨拶に行ったら、「今日は、ど真ん中ばかり投げさせるから、好きに打っていいぞ」とのことだった。

 以前も言ったが、その手は桑名の焼きハマグリ。

 信じるものはバカを見る。


 さて試合が始まった。

 オープン戦も残すところ、あと3試合。

 よい感触のまま、開幕を迎えたいところだ。


 1回表。

 打席に立った。

 初球。ど真ん中へのストレート。

 力のあるストレートだ。

 絶好球過ぎて見逃してしまった。


 2球目。

 ど真ん中へのストレート。

 落ちるのかと思いきや、落ちなかった。

 結果的に絶好球を2球連続で見逃したことになる。


 3球目。

 またもやど真ん中に来た。

 さすがにこれは打たないと。

 ところがボールは微妙に変化した。

 原谷さんの顔のような嫌らしい球だ。

 

 ボールの上っ面を叩いてしまった。

 打球はホームベースの先で、大きく弾んで、ピッチャーの頭を越えた。

 ショートの新井選手がダッシュして捕球し、一塁に投げてきたが、セーフ。

 結果的に内野安打となった。

 

 原谷さんは「よくもやってくれたな」、というような怖い顔をしている。

 いやいや、最後の球はど真ん中とは言えないですよ。

 打ち取る気満々だったじゃないですか、と僕も目で答えた。

 飛んだコースも良かった。


 2番は五香選手である。

 五香選手は足が速く、バントもできるし、長打力もある。

 唯一の欠点が三振が多いことである。


 シーズン中であれば間違いなくバントの場面だろうが、ここはオープン戦なので打たせるようだ。


 そしてノーボール、ツーストライクからの3球目。

 真ん中低めのスプリットを空振りし、三振してしまった。

 五香選手の最大の課題はミート力であろう。


 3番の道岡選手がフォアボールを選び、4番のダンカン選手が三振し、ツーアウトランナー一、二塁の場面で5番の谷口の打順を迎えた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 



 


 


 

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