第288話 オープン戦ならでは?

 打席に入った谷口はかなり、気合が入っているようだった。

 昨シーズンは二軍でいくら打っても、一軍からはお呼びがかからなかった。

 チャンスすら与えられなかったのだ。

 

 そして現役ドラフトで移籍。

 言葉には出さないが、静岡オーシャンズに対し、強く思うことがあるだろう。

 バッターボックスに立った谷口の目には、静かに燃えるものを感じた。


 原谷さんもそれを感じ取ったのだろう。

 ど真ん中に投げさせるような事はせず、全て外角に投げさせ、ストレートのフォアボールとなった。

 谷口は悔しそうに唇をかみしめて、一塁に歩いていった。

 もし一球でも甘い球が来ていれば、今日の谷口ならスタンドに運んでいただろう。

 結局この回は後続が倒れ、無得点に終わった。


 1回裏、いきなり大道寺投手が静岡オーシャンズ打線につかまり、1番打者から5連打をくらい、3点を失った。

 更にノーアウト一、三塁の場面で僕らはマウンドに集まった。

 

「オープン戦だ。縮こまらずに思い切って投げろ」と道岡さん。

 やがて輪がほどけ、大道寺投手はその通りに腕を振ってストレートを投げた。

 そして…、6番の高橋孝司選手にスリーランホームランをくらった。

 これで6対0。


 シーズン中なら、ピッチャー交代だろうが、オープン戦ということもあって、大道寺投手は続投した。

 これも経験ということだろう。

 

 さらに7番の小田島選手をフォアボールで歩かせ、あろうことが8番の原谷さんにツーランホームランを打たれた。

 原谷さんごときに打たれるくらいでは、一軍では通用しないだろう。

 これで8対0。


 チームの士気にも影響すると考えたのだろう。

 大平監督が出てきて、ピッチャー交代を告げた。

 大道寺投手は虚ろな目をしながら、マウンドを降りた。

 まさにプロの洗礼を浴びた。

 修正するのは容易では無いと思うが、早い段階で挫折を知ったことは、今後のプロ野球選手人生の糧になるだろう。

 いや是非、糧にして欲しい。

 

 僕だって、プロ出場2試合目、牽制死で、チームのシーズン最終戦を終わらせた経験など、いっぱい悔しい思いをしてここまで来たのだから。


 試合は後を継いだ、高卒6年目の右腕、持田投手が立て直した。

 1回裏をピシャリと抑え、2回、3回と無失点で切り抜けた。

 僕はというと、3回表に打席が回ってきたが、フルカウントからショートゴロに倒れた。


 そして4回表、谷口からの攻撃であったが、気合が空回りしたのか、空振りの三振に倒れた。


 そして4回裏。

 大平監督がベンチを出て、主審となにやら話している。

 選手交代のアナウンスが流れた。

「札幌ホワイトベアーズの守備位置の変更をお知らせします。

 ピッチャー、持田に変わりまして五香。

 2番、ピッチャー、五香。

 また、選手交代をお知らせします。

 4番、指名打者ダンカンに変わりまして、ライト、今泉

 4番、ライト今泉」

 

 何だ、何だ。

 初めてこんな内容のアナウンスを聞いた。

 つまり、五香選手がライトからピッチャーに替わり、指名打者を解除して、ライトには今泉選手が入るということか。

 うーん、複雑。


 投球練習をしている五香選手を見ていると、ピッチャーにしか見えない。

 シーズン中でもこんな場面が見られるのだろうか。

 観客席も大いに湧いている。


 ここまで8対0とワンサイドゲームになっているので、ファンサービスの一つかもしれない。


 さて4回裏、五香投手は静岡オーシャンズ打線を三者凡退に抑えた。

 結局、五香投手は5回と6回も投げ、打者9人に対し、1本のヒットも許さなかった。


 そして札幌ホワイトベアーズ打線が終盤に爆発し、結果的に8対7で敗れたものの、2回以降は完全に札幌ホワイトベアーズペースであった。

 谷口も8回にスリーランホームランを放ち、溜飲を下げたようだった。

 

 もっとも僕は4打数1安打で、途中で退いた。

 いいんだ、まだオープン戦だし。

 シーズン始まってから、打ちまくってやる、と軽く強がってみる。


 さあ来週はいよいよ開幕だ。

 スタートダッシュを決めてやりたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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